師匠
午後1時。 師匠はやってきた。 彼女と会うのは今日で最後だと思うと、僕は朝から寂しい気分でいっぱいだった。 「……暗い。テンション低すぎだぞ、お前」 ――すみません。クロもいなくなっちゃたし、師匠だって……。 「最後ぐらい、明るく別れよう、な?」 そ…
午後1時。 師匠はやって来た。 来たけれど、先週の事もあってか、僕たちの間には気不味さしかなかった。 僕は師匠に何も話す事ができなかった。 黙って時間が経つのを祈りつつ、いま師匠と話さずにいたら後悔するという焦りもあった。 自分でもどうしていい…
午後1時。 師匠は雨の中、ピンク色の傘をさしてやってきた。 元気が無かった。 僕も、師匠も。 たぶん、不安だったからだと思う。 「よし、乗せろ」 ーーはい。 先週の約束通り、クロの体重を計ることになった。 この家には体重計が無かったので、今日師匠…
午後1時、師匠はお土産を手にやってきた。 有名チェーン店のドーナツ。 師匠はドーナツを広げ、僕はコーヒーを淹れた。 ――バイト、落ちました。 「何だ、あんまり残念そうじゃないな」 一発で見抜かれる。 そうだ、本音を言うと僕は怖かった。 アルバイトに…
午後1時。 師匠がやってきた。 玄関で迎え入れる時に気づいてもらえた。 「髪、染めたんだな」 「どうした、色気づいたのか?好きな女でもできたのか?」 ――僕はまだ…… あなたの事を、と言いかけた。 「ああ、もういい。黙ってくれ。……ごめんなさい。本当に…
午後1時。 師匠はやってきた。 なんだか落ち着かない様子だった。 師匠はここへ来るなり急いでレポートを書き始めた。 一言も話さない。 僕が淹れたコーヒーを一口も飲まない。目も合わさない。僕が話しかけても、「おう」とか「ああ」しか言わない。 会話…
朝、母から電話がかかってきた。 内職を手伝ってほしい、と。 ここのところ母の内職は忙しい。僕も2日前から手伝っている。今日も引き受けたのだが、寝起きでテンションが低いのでちょっと僕はイラついていた。 つい「めんどくせえな」みたいに言ってしまっ…
午後1時。 いつも通り師匠はやってきた。 白の長そでワンピースに黒のタイツ、ペタンコ靴というシンプルなファッションだった。 師匠がレポートを書き終わったことを確認してから、この一週間でやった実験を報告した。 成功も失敗も包み隠さず。 「もう、大…
午後1時。 師匠はやってきた。 カーキのモッズコートに、ピンクのリボンという甘辛コーデだった。 「お~、ブサイク!元気だったか!?」 「ニャー!」 両手を出す師匠。飛びつくクロ。 すごくなついてる。僕以上かもしれない。 「ははは。くすぐったいわ」…
失恋については吹っ切れた。 僕はもう大丈夫だ。 午後1時。玄関のチャイムが鳴った。 僕は軽い足取りで玄関へ。 笑顔で師匠を迎えよう。ドアを開ける。 ――こんにちは! 「……おう」 ものすごくテンションの低い師匠が立っていた。 ここのところエロい、いや…
朝から落ち着かなかった。 裁判の結果を待つ被告の気持ち。 師匠は来てくれるのか、と。 午後1時、いつもなら来る時間。 来ない。 ああ、やっぱり、とぐったりしていたら玄関のチャイムが鳴った。 師匠は来た。けっこう大きなバッグを持って。 ――もう来ない…
泣けてくる。 師匠にふられたからだと思う。 ふられることを前提に告白した。 理屈では完璧に受け入れていた、はずだった。 感情が理屈に従ってくれない。 心のどこかで、受け入れられることを期待してしまっていた。 甘かった。 こんなに苦しいのなら、告白…
……告白するぞ。 僕は朝から緊張していた。 朝のニュースの占いを気にしていたが、恋愛とは全然関係ない内容だった。 クロを抱き上げて、僕頑張るよ、と言ってみる。 ブッ! あいつは屁で応えた。なんて奴だ。 午前中、ずっと師匠の事を考えていた。 出会った…
どうしよう。 先週、師匠に宣言してしまった。 好きな人に告白する、と。 師匠は僕の気持ちには全く気づいていない。 勇気がない。 「諦めれば傷つかずにすむよ?」 「もう頑張ったじゃないか?」 「何その気になってんの?」 もう1人の僕がガンガン言い訳…
告白する、と宣言してしまった。 今更になって、 うわぁ、どうしよう、マジでやばい、どうしようどうしよう、って頭を抱えてる。 部屋の中にいても堂々巡りだったので、スーパーへ行ってきた。 いろんな人や物をぼんやり眺めた。 老夫婦、ちびっ子、生肉。 …
午後1時。 こたつに入ってクロとポテトチップ(のりしお味)を食べていたら。師匠がやってきた。 ミニスカートだった。 目のやり場に困る。 午前中、恋愛小説を読んで胸を熱くしていた事を師匠に伝えた。 「独身男の悲しい日常だな」 ――余計なお世話です(…
今日は何事もなくクロと遊んでいた。 平和だ。 散歩にも行った。 すれ違う人とあいさつをする。 だいぶ緊張しなくなってきた。 いい事だと思う。けど、 ちょっとさみしい。 それまでドキドキしながら一生懸命やっていた事に慣れて、「あたりまえ」になってい…
迷っている。 師匠に告白するかどうかを。 振られる事はわかっている。 好きな人がいるし、僕は弟子だし。 どうして僕は気持ちを伝えたいのか? 伝えてどうなる? 自分の中で気持ちを抑えて1人で苦しんでいればいいじゃないか。 今までずっとそうだったし。…
体調が悪い。 熱が出てる。 昨日の夜は39.4度だった。 今朝はかると37.5度。 しんどい。 病院に行った。 医者の人は、「たぶんインフルエンザ」と言っていた。 「たぶん」ってなんだよ……。と思ったが、 インフルエンザを治す路線で治療を進めると言…
午後1時。 師匠がやってきた。 上機嫌だった。 ここに来る前に「アイハラ君」と会っていたらしい。 何か笑顔が弾けてるし、いつもよりやさしい。 うれしかった。でも、 くやしくもあった。 1週間の報告をする。 「頑張っているな、それで……」 ――? 「いい…
昨日の夜も眠れなかった。 目を閉じるとあの人の姿が浮かぶ。 くるしい。もだえる。のたうちまわる。 恋をしている人は皆こうなってしまうものなのだろうか? 午後1時。師匠はやってきた。 僕は今週やったこと――レシートをもらったこと、おでんを買ったこと…
午後1時。 師匠はいつも通りやってきた。 先週あんな事になったので、僕はどういう挙動をとればいいのか、わからなかった。 緊張。 でも師匠は全く気にしてないそぶりで言った。 「何だそわそわして。クソでもしたいのか?」 クソとか言ってほしくなかった…
午後1時。 師匠がやってきた。 ――こんにちわ。 「……おう」 声に力がない。 どことなく元気のない師匠を見て、僕はいいようのない不安を覚えた。 ――あけましておめでとうございます。 「別にめでたいなんて思わんわ」と言って師匠は力なく笑った。 僕は自分…
ボーっとしていた。 なにも考えたくなかった。 とくに昨日の事は。 午後1時。師匠がやってきた。 「どうした?」 僕がひどい顔をしていたのだろう。 師匠は怪訝な顔をしていた。 「怪我をしたのか?」 気付かれた。昨日石をぶつけられてできた傷に。 ちょっ…
午後1時ちょっと過ぎ。 玄関を開けるなり、師匠は僕を見て「ほう」と一言もらした。 「少しはましな見てくれになったな」 その言葉だけで、すべてが報われた気がした。 勇気を出してよかった。 イヤーマフを外して、こたつでくつろぎだした師匠に温かいコー…
水道水が冷たい。 手が冷えて、皿洗いがきつい。 かと言ってお湯を使うとガス代がかかるし、手の油分が奪われてカサカサになる。 ならばいったい僕はどうしたいのだろう? これからどんな人生を送りたいのだろう?と考えていたら午後1時。 師匠はやってきた…
僕は昨日の暗い気分を引きずったまま、午前中を過ごした。 クロは能天気にひなたぼっこ。 あいつは僕の不安に気付いているだろうか? 親としては落ち込んだ姿なんて見せられない。 親が揺れていると、子供は不安になる。 信じていたものが壊れた時の痛みを思…
午後1時、玄関を開けると。 「こんにちわぁ♡」 師匠が僕にあいさつしてきた。笑顔だ。フルスマイルだ。 僕は動きが止まった。 「あ」 急にきまりの悪そうな顔になった。視線をそらして師匠は言う。 「間違えた。今のナシ!何でもない。忘れろ!」 ――え? 「…
午後1時を回って、雨が降り出したころに玄関のチャイムが鳴った。 ドアを開けると、そこにいたのは白のワンピースに、カーキ色のモッズコートをまとった師匠だった。 なんか白が眩しいし、コートの袖口はもこもこしてるし、黒いタイツに包まれた脚は超細い…
午後1時。 師匠は僕に断って、この部屋で昼食を食べていった。 コンビニ食。 おにぎりを両手で持って、ちょぼちょぼ食べる師匠を見て、僕の胸はキュンとした。 その視線に気づいた師匠は、何だ?と僕をにらんだ。 ――すみません。何でもないです。 僕は小さ…