hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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おとな

午後1時。

師匠は雨の中、ピンク色の傘をさしてやってきた。

元気が無かった。

僕も、師匠も。

たぶん、不安だったからだと思う。

 

「よし、乗せろ」

ーーはい。

先週の約束通り、クロの体重を計ることになった。

この家には体重計が無かったので、今日師匠が持ってきた。

古ぼけた目盛り式の体重計。

ところどころ赤茶色に錆びていた。

 

もしクロの体重が20kgを超えていたらクロは回収されて、僕の里親生活は終了だ。

そうなると、師匠だってここに来なくなる。

クロもいなくなるのだから、当然僕は独りきりになる。

僕にとってはその事が何よりも怖い。

 

20kgがデッドライン。

この1週間、葛藤した。

クロに運動させようとか、ご飯を与えなければいいのかなんて思ったりした。

でも、それは人として駄目だと思ったので僕にはできなかった。

 

「ニャー」

クロはよくわからない、というふうにキョロキョロしていた。

体重計の上に乗せて、ゆっくり手を離す。

僕は祈りながら目盛りを見つめた。

 

 

 

 

 

22kg。

ゲームオーバーだった。

 

 

 

「おめでとう。里親のバイト、成功だ」

師匠が棒読みで言った。

 

それから、説明を受けた。

1、クロは回収される。しかし、あと2週間ぐらいの猶予はある。

2、成功報酬は10万円。

それから……。

 

 

「私も、もうここには……」

――来なくなるんですね。そうですか……。今までありがとうございました!

「お前は……」

――大丈夫です!もう、1人でもやっていけますから。師匠のおかげです!

努めて明るく。

大きな声で感謝を伝えた。

すると師匠は一瞬さびしそうな顔をして、唇を噛んだ。

にらまれる。

「そうか。お前がそう言うならそれでいい。私も師匠卒業だな」

――……。

僕は師匠の目を見続ける事ができなかった。

「……じゃあ、今日はもう帰る。また来週」

師匠はそのまま僕と目を合わさず、荷物を持って出て行った。

いつもみたいに玄関まで見送る事ができなかった。

 

僕は少し泣いた。

でも、

あれでよかったんだと思う。

「これからも会いに来てほしい」なんて言えない。

きっと迷惑だろう。

僕は1回師匠に振られているし、駄々をこねるなんてかっこ悪すぎる。

笑って別れるのが大人のふるまいだ。

僕は成長した。

たぶん。

それでは、また。