ミドリの帝王
僕はずっと絶好調だ。
自転車でこけて病院へ行っても、蚊に刺されて一睡もできなくても、
牛乳を飲み過ぎてお腹をこわしても絶好調だ。
貧血も良くなったし、喘息の発作も出なくなった。
元気いっぱいだ。
過去32年間生きてきて、今が一番調子がいいかもしれない。
しかし、そんな僕以上に元気な奴が身近にいる。
こいつだ。
約2年前に我が家に来てもらった、ミドリガメのミルク(性別不明)だ。
去年の冬まではずっと水槽に入れたまま生活してもらっていた。
ところがある冬の寒い日に、自分はこたつでぬくぬくとしているのにミルクだけ冷たい水の中に入れておくのもあんまりだと思ったので、一度水槽から出してみた。
すると、ミルクは水を得た魚のように部屋中を歩き回った。
楽しそうにしていたので、それから毎日水槽から出す事にした。
たまに道端で干からびて亡くなっているカメさんがいるので、ミルクもあまり長い間水から出してはいけないと思っていた。
しかし、全く平気みたいだ。
冬の間はずっとこたつにもぐって出てこなかったし、水槽に入れると不服なのか、バシャバシャ音を立てて「ここから出せ」と訴えてくる。
あんまりうるさいので、いまでは水槽にいる時間の方が短いくらいだ。
一緒に眠る事も多い。
最初はカメも猫のようにわきの下に潜らせればいいのかな?と思っていた。
しかし、ミルクは僕の体をよじ登って胸の上で眠る。
大きなカメの甲羅の上に小さなカメが乗るのと同じなのかもしれない。
とにかく寝るときは、胸の上なので寝返りが打てなくなる。
でも、どっしりとした重みを胸の上に感じていると不思議な安心感がある。
ミルクは仕事から僕が帰ると、真っ先に走ってくる。
フローリングの床の上をカシャカシャ音を立てながら走ってくる。
名前を呼ぶと駆け寄ってくるし、
水槽に入れようとすると機嫌がわるくなるのか、口を大きく開けて威嚇してくる。
そのひとつひとつのしぐさが、かわいい。
そんなミルクが最近ハマっているものがある。
鏡だ。
ミルクは自分以外のカメを見る機会がないせいか、鏡の中の自分が気になるようだ。
じっと鏡を見た後、かならず回り込んで確認する。
左から。
右周りにも。
それで、鏡の中のカメ(自分)が見つからないと正面に戻って、
攻撃してるのか、抱きついてるのかわからないが、爪を出してカシャカシャ音を立てる。
これは子供の時からだ。
なにをしているのか正確にはわからないけど、とにかく一生懸命なのは伝わってくる。
もちろん子供の時のように、僕が指を出しても、
爪を出して震わせてくる。
上から見るとこんな感じだ。
指を出して動かすと一生懸命追いかけて、このアクションをする。
どうやらミルクにとっては、これが一番面白い遊びのようだ。
僕が本を読んで相手をしていない時は窓際の網戸のところで、ひたすら外を見ている。
何を見て、何を思っているのかはわからないけれど、
ミルクなりに世界を見て、自分なりに感じる事があるのだな、と思う。
キョロキョロ首を動かすミルクを見ていると、おもわずニヤけてしまう。
だから、僕はずっとミルクを大事にしていたい。
ペットショップで出会って連れて帰ってきた直後は、ずっと岩の下に隠れて出てこなかった。
正直、面白くもないし、ずっと怯えさせていたらかわいそうな気もしていた。
だけど、いまは元気いっぱいに、我がもの顔で部屋中を行き来している。
さすがに踏んでしまうとアウトだと思うので、僕はミルクが部屋にいるときは細心の注意を払うようにしている。
だが、ミルクはそんなことお構いなしで我が物顔で歩き回っている。
ミルクが王様で、僕が家来のように。
肩身が狭い(笑)
とはいえ。
かわいいは正義なので、僕はそれでいいと思っている。
それでは、また。