スタンガン
来た。
あの子、調査員。
午後になって玄関のチャイムが鳴る。
恐る恐る開けると、いた。
花柄のワンピース。靴下をはいて、その上からサンダル。
僕はファッションに疎いのでよくわからないが、これ、おしゃれなのか?
今日は最初から構えていた、カッターナイフを。
彼女は僕を睨みつけながら「仕事だ、入れろ」と言うと、返事も聞かず部屋の中に入ってきた。
土足で。
あの、と声をかけると、不機嫌そうに「何だ?」と返事をした。
僕は勇気を振り絞って、危ないからカッターはしまってくれませんか、と頼んだ。
無言。
何も変なことしません、と説得した。すると、「わかった。こっちにする」と言って、バッグの中を漁った。
カッターをしまったかと思うと、代わりにヒゲ剃りみたいなものを取り出した。
あれは多分、スタンガンだったと思う。
ものすごく警戒されている事はわかった。ちょっと心が傷ついた。
前回同様、デジカメを取り出して、卵を撮影し始めた。何枚か撮ったところで電話が鳴った。彼女の携帯だ。
出る。
「ああ、私~。今バイト中なんだ。終わったらすぐ行く~。待ってて~」
何か普通だった。というより、軽い。声も高かった。
何なんだ?
再び声をかけた。
あの、なんか僕に対する態度と電話の人に対する態度が大分違いますね。
「当然だ。お前に気を使うことで、私に何のメリットがあるというのだ?」
低い声で、吐き捨てるように言った。
明らかに差別されてる。
ここまで露骨に見下されたことがなかったから、呆気にとられた。
そのまま、5分ほど卵の写真を撮ったかと思うと、彼女はズカズカ歩いて出て行った。
卵は今も変化なし。
僕の神経はすり減るばかりだ。
それでは、また。