告白
……告白するぞ。
僕は朝から緊張していた。
朝のニュースの占いを気にしていたが、恋愛とは全然関係ない内容だった。
クロを抱き上げて、僕頑張るよ、と言ってみる。
ブッ!
あいつは屁で応えた。なんて奴だ。
午前中、ずっと師匠の事を考えていた。
出会った当初、見下されていた事。
やけくそで弟子入りした事。
ぶつかれば本気で応えてくれた事。
あえて特別なことはしない。
服装も外に出て恥ずかしくない程度のものにとどめておいた。
ふられるのが怖い。
でも、自分の気持ちにふたをして、何年の後になって「もしあの時、告白していたら……」なんて思うのはもうやめるんだ。
僕の人生そんなのばかりだった。
変えたかった。ずっと変わりたかった。
そして、今日変わる。
午後1時。師匠が現れた。
こんな日に限って師匠はぶっちぎりに可愛かった。
――師匠、今日はいつも以上に可愛いですね。
「お前、わかってるな。でもキモいわ」
――ひどい。
師匠と僕は声をたてて笑った。
そのあと師匠はクロのレポートを書いていた。その間、ずっと2人でしゃべってた。
最近寒いから靴下を2枚はいて寝ます、とか、私は湯たんぽ派だ、とか。
皿洗いがしんどい季節だな、とか、肉まんおいしいですよね、とか。
ほんとにどうでもいいことで、時間がゆっくり流れていく。いつの間にか僕たちは普通に話せるようになっていた。だけど、今日は緊張していた。
胸が熱かった。くるしい。
いつの間に師匠にこんな気持ちを抱くようになったのだろう。わからない。
でも、間違いじゃない。
僕は話しながら、ずっと師匠を見つめてしまっていた。
視線に気づかれた。不思議そうに僕を見る。
師匠は「気を使うメリットがない」と僕にぶっきらぼうにふるまう。でも僕はそこに救われている。
「自分はうまくやっている」なんて言うくせに不器用でいつも傷ついている。
「私は弱音なんて吐かない」と言いつつ、思ってる事がすぐ顔に出る。
きっと辛い事、しんどい事、悩み、色々あるんだろう。
僕が誰かの力になりたいなんて思ったのは何年振りだろうか。
実際には僕が頼りっぱなしだけど。
思い切って言った。
――師匠。教えて欲しい事があります。
「何だ?」
――目の前に好きな人がいるんですけど、気付いてくれないんです。
「?」
わかってない。
――具体的に言うと、あなたに対する僕のこの気持ちをどう伝えればいいんですか?
師匠の瞳がゆっくり、大きく開いた。
驚いた顔を見て、僕は一気にたたみかけた。
「大好きです」
ふられた。
「気持ちはありがたいが、無理だ、付き合えん」とはっきり。
ですよね、と、わかっていたのに若干傷ついた僕がうつむく。
すると師匠は、
「女なんていくらでもいる!」
「お前が悪いんじゃないからな!そうだ、私にはアイハラ君がいるからな!」
「必要以上に落ち込むなよ!」
「つ、次があるさ!あ、次って別の女の事だからな!」
とか早口でまくしたてて、なぐさめて(?)くれた。
僕は焦っている師匠を見るのも面白い、なんて意地悪に強がってた。
「……全然気付かなかった。すまない」
――その……、気持ち悪いとか、思ってませんか?
師匠は目を伏せて首を左右に振る。
「嬉しくない、と言えば嘘になるレベルだよ」
僕はそれだけで、もう……。
「だけどな」
何か怒ってる?
「お前言ったよな。好きな相手は『裏表があって』『強くて』『ちょっと駄目なところがある』と。どういう事だ?」
――……そ、それは……。
僕は全力でごまかした。
怒った口調で僕を責めながらも、師匠の目は笑っていた。
ふられたけど、いつも通りの「何か」がまだここにある。それが何よりもうれしかった。
ああ、ふられた。
けど、涙は出ない。
僕は今、笑っている。
それでは、また。