引っ越しの人たち
引っ越し業者の人たちの事を思い返してみる。
夕方3時に3人で3トントラックで来てくれた。
窓の外にトラックが入ってくるのが見えて、しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、40代くらいのおじさんが立っていた。
青いユニフォーム姿だ。
やせ形で、無駄な贅肉が付いていない。
精悍な顔つきと、落ち着いた佇まいを見て僕はサムライみたいだと思った。
上がってよろしいですかと聞かれて、上がってもらった。
作業の前の説明に入る。
サムライが正座をして説明を始める。
僕も向かい合って正座をして話しを聞いた。
僕が運んでほしいものと運んでほしくないものの説明をし、サムライは注意事項の書かれた紙を僕に見せながら、丁寧に確認をとる。
最後に説明の紙にサインをし、料金を支払ってお話は終わった。
サムライが姿を消して5分くらいした後、大量の毛布みたいな布や、家具のカバーを持ってきた。
おお、始まるんだな、と思っていたら、
「こんにちわー」と体格のいい男の人が現れた。
オレンジっぽい茶髪。眉毛もいじっているらしく、ところどころ禿げている。
どう見てもヤンキーぽかった。
僕は若干ビビりながら、お願いします、と頭を下げた。
ヤンキーは早速ダンボールに手をかけた。
軽く揺らすと、カチャカチャ音がした。
ヤンキーは、
「これ、皿がむき出しで入ってるみたいなんですけど、このまま運びます?割れるかもしれないんですけど」と聞いてきた。
僕は、今さら開いて梱包をやり直すわけにもいかないし、自分で運ぶのも面倒だったので、
「そのままやっちゃってください。割れてもしょうがない」と答えた。
するとヤンキーは眉を軽く持ち上げて、お?やんのか?という顔をして、「わかった。」と答えた。いきなりタメ口になったのを聞いて、僕は嫌みのない親しみやすい男だと思った。
続いてもう1人。
メガネをかけた若干太った青年が部屋に入ってきた。
目を合わせようとしない。
僕は一応「今日はよろしくお願いします」と挨拶をした。
すると、彼は「どうも、よろしくお願いします……」と小声で言った。
コミュニケーションが苦手な人なのかもしれない。
自分もそういうところがあるので、僕は彼に親近感を覚えた。
作業は怒涛の勢いで進んだ。
とにかく早い。
無駄がない。
独特のテンポで作業は進んでいく。
さすがプロだと思った。
家具を持ち上げる3人の腕を見ると、筋肉が収縮し、血管が浮いていた。
力強く頼もしい腕だと思った。
サムライは気さくな人で、豆腐屋の車が通ると「ああいうとこの豆腐って美味しんですよね」とか声をかけてくれたり、その後も何度か笑顔で話しかけてくれた。
緊張していた僕の事を気づかってくれていたのか、僕には彼のその気持ちが嬉しかった。
他にもネジの足りなかった僕の本棚の修理をしてくれたり、一生懸命家具の掃除もしてくれた。
大好きだと思った。
僕は2階に住んでいたのだけど、自転車の音が外から聞こえてきた。
1階では学習塾がやっている。
その日は塾の日だった。
子供たちが集まってきているようだ。
下の方から声がした。
「このお兄ちゃん、こわーい!」
女の子の声。
ヤンキーを怖がっているらしい(笑)
それに対してヤンキーは、「怖くないよ☆」とおどけた声で応えていた。
やっぱり彼はいい奴だと思った。
サウンドオンリーだったので、少女の反応はわからない。
わからないけど、僕は一人で噴き出していた。
作業も終盤に入り、サムライがメガネ君に指示を出す。
エアコンの室外機やって、と。
メガネ君は汗だくだった。
シャツの下半分まで汗でぬれていた。
疲労の色が顔に浮かび、それでも頑張る姿に心を打たれた。
僕は普段写真を撮らないけど、その時の彼を撮ったらいい1枚になるんじゃないかと思った。
1時間程して、荷物を運び出す作業は終了した。
新しい部屋に荷物を入れる時も、丁寧かつ迅速な作業をしてもらい、無事に引っ越しは完了した。
僕はずっと見ているだけで、彼らに申し訳ないのだけれど、すごく楽しかった。
引っ越し作業なんて普段見られるものじゃないし、
一生懸命人が働く姿を見るのも興味深かった。
僕はあの日の事を忘れないと思う。
3人に感謝している。
それでは、また。