hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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生まれた

午後1時を回ったところで玄関のチャイムが鳴った。

今日の師匠は全身モノトーンの服なんだけど、靴だけピンクだった。

 

師匠は部屋を見回して言った。

「うん。ましになった。まだ、ちょっと臭いけど吐き気がするレベルではない。よくやった」

ん?ほめられた?いや、けなされた?よく分からないけど、努力は認めてもらえたと思う。

「それで、お前はどうしたいんだ?私に何を求めているんだ?」

えっと、社会復帰したいというか、外に出て働けるようになりたいです。そのアドバイスをください。お願いします。

「うん。そうか。最初に言っておくが私は先輩だ。二年間引きこもっていたが、外出しバイトまでできるようになった者だ。だから、アドバイスはできる。だが、」

はい。

「結果までは責任を持たない。努力はお前がすることだし、勇気を出すのも、傷つくのも、全部お前自身が引き受けるんだぞ。わかったか?」

僕はうなずいた。それは覚悟していたし、わかっていた事だ。しかし、

師匠、引きこもっていたんですか?

「まあ、……そうだ」

師匠の声に力がなくなった。これ以上は聞かないでおこう。

「それで、お前はどうして引きこもっているんだ?」

聞かれるとは思っていたけど、あまり説明したくはなかった。だけど必要なことだから、説明した。病気のこと、人が怖いこと、それでも外に出たいことを。

「……わかった。まず外に出ることからだな。人に会うと調子を崩すんだろ?だったら昼間だ。昼間に外に出ろ」

えっ?

外に出るのはいきなりすぎると思ったし、意外な答えだった。昼間は人だらけじゃないのだろうか?

「確かに都会だと昼間も人がいる。だが、ここくらいの田舎じゃ昼間はみんな働きに出ている。誰にも会わん。心配するな。それに朝夕はお前の苦手な学生がうじゃうじゃいるだろう。昼間だ、わかったな。1日1回5分でもいい。まず外に出ろ。そこからだ」

そうなんだろうか?意外だった。昼間は閉じこもっているから外のことはわからなかったけど、言われてみればそうかもしれない。

僕は緊張しながら、はい。と頷いた。

 

「さて、仕事だ」

師匠はデジカメを取り出した。そのとき気付いたけど、師匠は靴をちゃんと玄関で脱いでいてくれていた。玄関にあるピンクのブーツを見ているとなんだか嬉しくなった。

……いや、靴を脱ぐくらい当り前か。

「おい!」

例の卵を撮影していたかと思うと、師匠は突然大声を上げた。

ビクッとして視線を向けると、

卵の、

殻が割れて、

中から、

何かが、

手を、

出していた。