実家
実家に帰ってきた。
実家と言ってもアパート。二階建ての二階部分、西側の端。19の時まで僕も住んでいた。
母が一人暮らし。
父は行方不明。
姉は結婚して出て行った。
いつもなら母が僕のアパートに来るのだが、さすがにクロを見せるわけにもいかず、僕が母に会いに行った。人通りのない道を選び、自転車で10分。
母は内職をしていた。
帽子の縫い糸を切って取る仕事。
数は一度に大体100個ずつ。たまに300だったり、400だったりする。
かれこれ10年は続いている。
まだ僕が健康で元気で引きこもっていない時、よく手伝っていた。
30分ほど手伝う僕に母が話しかけてくる。
「調子はどう?」まあまあ。
「ご飯食べてる?」うん普通に。
「ゲームばかりしてるの?」いや、あんまり。
生返事しかできなかった。
家で留守番させているクロのことが気にかかって落ち着かない。
さみしい思いをしていないだろうか?
母子家庭で育った僕は子供のころずっと一人で留守番をしていた。姉も病気で入院していて、食事は基本カップラーメンを一人で摂っていた。
今も変わってないな。
小さくなった母の背中を一度眺めてから実家を後にした。
自転車をこぎながら、逆の立場で考えた。
すこし留守番させるだけで、子供(ペット?)のことがこんなに心配になるのだから、病気で引きこもっている僕は、どれだけ母に心配をかけているのだろう。胃のあたりが少し痛んだ。
自宅に到着する。
数人の人たちとすれ違っても調子を崩さなかったのは、ヒルナミンをあらかじめ25mg飲んでいたからだろう。
クロは大丈夫だろうか?
玄関を開けてリビングまで早足で進む。
扇風機に頭を乗せてクロはすやすや眠っていた。
そういえばこいつの親(だと思っている)は扇風機だった。
僕はご飯とトイレの世話をすれば、他は必要とされてないのかも。
それでは、また。