説教と、目を合わせる事と、かわいいこと
師匠に説教された、正座で。
クロを育てていく自信がありません。と言ったら、
「なんだと!ちょっと座れ!そこに座れ!」
……で、30分。
「親に見捨てられる子どもの気持ちが、お前には分からないのか!?」
「親が馬鹿だと子どもが苦労する。その子には責任がないのに、だ!」
怒っていた。今までで一番怖かった。真剣だった、鬼気迫るものがあった。
師匠は最後には涙目になって、
「だから、見捨てるなんてひどいことはするなよ。そんな悲しいことするな」
と結んだ。
すみませんでした。と、謝ると、
「……私にじゃないだろう。この子に謝れ」
僕はごめん、とクロに謝った。クロはニャー、と言って僕の手をぺろりとなめた。
よし、と師匠は安堵の顔を浮かべ、うなづく。
師匠はバッグからレポート用紙のようなものを取り出して、クロを見ながら何かを書きだした。
デジカメは使わない。
孵化したから、調査員としての業務内容が変わったのだろうか?
「それにしても、全然かわいくないな。なんだこの生き物は?」
……ひどいよ。
僕はクロのことをかわいいと思っていたので、ショックを受けた。
確かに、顔はゆがんでいるし、二頭身だし、手足もびっくりするぐらい短い。
不細工だと思う。
でも、かわいい。
いわゆる「ブサカワ」というものだと思う。飼っているうちに情が移ったという側面も強いだろう。でも、だからこそ、それでも、かわいい。
「それから、だ」
サラサラっと、レポートを書き終えた師匠は再び口を開いた。
「お前、人と話すときはちゃんと相手の目を見て話せ。会話の基本だぞ」
僕は恐る恐る師匠の顔を見た。
初めて顔をじっくり見た。
衝撃を受けた。
真ん丸な瞳も、すっと通った鼻筋も、チークでほんのり淡いピンクの頬も、グロスが乗って光るくちびるも、すべて「女の子」らしかった。
いつも怒られてばかりだし、偉そうだし、将軍様みたいだから気付かなかったけど、こんなに可愛かったのか。僕が驚いていると、
「じろじろ見るな、キモい」
いや、師匠が見ろって……。
「限度と言う物がある。これだからキモオタは……」
……いま、キモオタって言った。あんまりだ。僕は傷ついた。
師匠が仏頂面で横を向いたとき、携帯が鳴った。
「もしもし、うん、わたし~。えっ?すぐ行く。うん、そう…」
髪を指でくるくる弄ぶ。瞳がきらきらしてる。危険なほどかわいらしい。
「私も、サトウ君に会いたかったんだ~。うん、じゃあ後でね~」
サ・ト・ウ!
僕は「サトウ君」に激しいジェラシーを感じていた。
その後、僕をそっちのけで師匠は出て行った。
僕は床に這いつくばる。
調子を崩した。
30分も人と話すことも負荷であるし、
人の目をまっすぐ見つめるなんてことももう何年もなかった、
おまけにちょっといじめられた。
ヒルナミンに手を伸ばすと、クロが「ニャー」とすり寄ってくる。
クロ、これはご飯じゃないんだよ。
僕は足をガクガク震わせながら微笑んだ。