オレンジ
河原へ行った。
太陽がまだ昇る前、誰にも会わない時間に。
かなり寒かった。
某有名ファッションセンターで何年も前に買った、2000円のピーコートで身を守る。
それでも風が吹くとかなり厳しい。
クロのトイレ掃除は済ませてきた。肉食になって少し臭うようになった。
換気には気をつけているが、実際のところ効果に自信はない。
師匠に臭いって思われたら、つらいなあ。
川の流れを見つめながら、僕はこれまでの事を思い返していた。
19歳の時に統合失調症を発症、自殺寸前で措置入院。何とか事なきを得る。
薬漬けの状態でそのまま10年、今のアパートに引きこもった。
もう30歳だと焦って、無理やり外出に挑戦。
惨敗。もうだめだ、と思っていたら変なメール。
「ドラゴンの里親になりませんか?」
面白半分に返信した。
それから卵が届き、バイト調査員の女の子と知り合う。
最初、彼女に無視されて、見下されて、毛嫌いされていた。
思いつきで賭けに出る。
弟子にしてください、と。バイトの成功報酬10万円を条件にした。
実は引きこもり経験のある彼女は、いいだろう、と引き受けてくれた。
師匠と弟子。今の関係に。
その後クロが本当に生まれ、師匠からの課題をこなすうちに、外に出られるようになった。
ずいぶん生活が変わってきた。
相変わらず人には否定されるけれど。
それでも、悪くないと思えるようになった。
一生懸命は楽しいなあ。
そんな事を思いながら、河原を後にする。
昇ったばかりのオレンジ色をした太陽がまぶしかった。
それでは、また。