できること
実家に朝一番で行くと、母が内職をしていた。
手伝う。
実家には僕専用の糸きりばさみが置いてある。
黙々と帽子の糸取り、札つけを行う。
内職がひと段落ついて休憩となる。
すると母はタバコを吸い始めた。
咳きこむ。
喘息が出た。止めた。
が、反発する母。
「お母さんは、タバコが吸えないなら死んだ方がいい」と言い出す。
続いて、
「もう楽しいことなんてそんなにない。だから好きに死なせて」と、とどめを刺してきた。
目が据わっていた。これは本気だ。
「生きること」に期待をしていない。
10年前、僕もこんな目をしていたんだろうか?
生きる根拠なんて人それぞれだ。そこに踏み込むことは僕にはできない。
圧倒的な無力感に襲われる。
バカ言うんじゃない、と軽くたしなめて内職に戻った。
寂しそうな母の背中を見つめながら、この人よりは先に死なない、と誓った。
それぐらいしかできる事が思い浮かばない。
もう、げんなりして頭がよく働かなかった。
その後、少し険悪なムードになってしまう。
本当はもっと優しくしたかったのだが。
全然、駄目だった。ああ、僕は何やってんだろう……。
それでは、また。