hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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黒髪

「ニャー」

「かわいいな。お前は」

師匠とクロが戯れている。ぴょこぴょこ動き回るクロと、それをにこにこ見つめる師匠。

あんな笑顔を向けられた事のない僕は、クロに少し嫉妬していた。

 

師匠は髪を切っていた。少しだけ染まったビターな感じの色も黒くなっていた。

髪の色を変えたのはサトウ君の好みによるものらしい。

ちくしょう!サ・ト・ウ!

……黒髪の師匠もいいけど。

 

先週図書館へ行ったことを報告した。

――距離も長かったし、坂がきつかったです。筋肉痛になりました。

すると師匠は、やはりそうかと呟く。あごに手を当てて、何かを考えていたようだった。やがて、うん、とうなづいて口を開いた。

「……走れ」

――走る?

「そうだ、走るんだ。体力をつけるには走るのが一番だ。少しずつでいい、いきなりはきついからな」

師匠は遠い目をする。もしかして、と思って師匠も走ってたんですか、と尋ねてみた。

「ああ。引きこもりから抜け出す時にな。あと、小学生の時にも走った。私は子供のころ太っていたんだ。だが痩せた。走る事でな」

今の師匠はどう見てもやせ形だ。

――かなり走ったんですか?きつくなかったんですか?

「ああ、きつかったよ。それでも楽しかった。お父さんが協力してくれたんだ。休みの日は朝から、平日は会社から戻るなり一緒に走ってくれたよ」

いいお父さんですね、と僕が言うと、師匠はお父さんの事を語ってくれた。

「弱いけど優しい人だった」

「母に尻に敷かれていた」

「車が好きな人だった」

そう話す師匠は子どものような笑顔を浮かべる。同時にどこか寂しそうな雰囲気も感じられた。

僕はその理由を聞く事が出来なかった。聞いてはいけない気がしたからだ。

 

僕は、いままで人の家庭の事情なんて聞いた事がなかったと気付く。

友達が少なかったし、腹を割って付き合える友達はさらに少なかった。

何よりも他の人の気持ちに無関心だった。

……生き方を間違えていたかも。

でも、今日は少し師匠に近付けた気がする。

それでは、また。