hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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ああ、かなわない

午後1時を回って、雨が降り出したころに玄関のチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、そこにいたのは白のワンピースに、カーキ色のモッズコートをまとった師匠だった。

なんか白が眩しいし、コートの袖口はもこもこしてるし、黒いタイツに包まれた脚は超細い。

思わず僕は見とれてしまった。

「何だ?」

――いえ。なんでも。師匠の今日の服、可愛いなと思って。

「そうか。お前もこっち系が好きなのか。サトウ君の好みに合わせたコーディネートだ。私にはどうでもいいことだがな」

部屋に招き入れて、こたつテーブルの上にコーヒーを出す。

師匠はほら、とスマートフォンを差し出してきた。

画像。

モデルさんが、ポーズを決めてニッコリ笑っている。師匠とまったく同じ格好だ。というか、師匠が全部まねしているのだろう。

モデルの写真上部に、「甘めの白ワンピでモテコーデ♡」という文字が躍っている。前にもこんなことがあったな。

「これは戦略だ。サトウ君の好みをあらかじめリサーチしておいたんだ」

身も蓋も無さ過ぎる。

僕は思わず眉間を手で押さえてしまった。

「文句でもあるのか?努力の最適化というやつだ。努力しても方向性が間違っていたら、何にもならん。覚えとけ」

はい、とだけ返事をしておいた。

 

僕はコンビニでの課題を達成した事を報告した。

「よくやったな」

腕組みしたまま、師匠はうなづいた。口角が少し持ち上がっていた。喜んでくれたのかも。

――これ。行ってきた証拠です。プレゼントです。

僕は師匠にコンビニで手に入れたお土産を手渡した。昆布のお菓子だ。

「信じているというのに……ありがとう」

 

師匠はクロを見ながらレポートを書いていた。

クロは基本的にこたつの中にいるので、ふとんを上げて観察する。

なんか臭う、お前足臭いのか?と言われた。

ちょっと傷ついた。

……足、臭いかなあ。

「大きくならんな、こいつは」

確かにそうだった。クロは全然大きくならない。そういう種族なのだろうか?

その時、師匠の携帯が鳴った。

「あ、もしもし。タカユキ!うん、今バイト中。終わったらすぐ行く!」

弾んだ声だった。

嬉しそうに、楽しそうにおしゃべりする師匠は普通の女の子だった。

かわいい、と思うと同時に僕に接するときのテンションの違いに、改めて愕然とする。

 

「今日はこれで失礼する。私は行かねばならん。タカユキが待っているから」

――……あの、タカユキさん、というのは?

「ああ、サトウ君だ」

名前で呼んでる!しかも呼び捨てだ!

確実に仲が進展していることを、まざまざと突き付けられた気がした。

ぜったいかてない。

そのあとの事はもう覚えてないや。

師匠、なんか楽しそうに出ていったなあ。

 

師匠が出て行ったあと僕は、白塗りの着物芸人みたいに叫んだ。

チクショー!

……。

それでは、また。