練習
髪は切った。
服装の問題は学習で乗り越えようと思う。
課題はあと2つ。
視線恐怖と、話しかただ。
僕は人の視線が怖い。
見ることも見られることも。
何というか、人と目を合わせると、心を読まれている感覚に陥る。
見透かされ、軽蔑され、否定されている気がする。
根拠はないけど、怖くてしょうがない。
師匠に「人と話すときは相手の目を見ろ」と教えられて実践してきた。
だけど未だに人と目を合わす事に抵抗がある。
単純に恥ずかしい、慣れてないというのもあると思う。
そこで思った。
練習だ!言い訳してる暇があるなら特訓だ!
クロに協力してもらうことにした。
クロの紅い目を見て、ふと思った。
こいつは僕の事をどう思っているのだろう、と。
いつも一緒に遊んでいるし、機嫌のいい時は近寄ってくるから、嫌われてはいないと思う。
でも用のない時は完全無視だ。
気まぐれな奴。
クロにとって僕は信頼に足る人間だろうか?
僕はちゃんと親をやれているのか?
……自信がない。
それで、やってみた。
クロを両手で抱き上げて、話しかける。
――クロ、僕は友達が欲しいし、彼女だって欲しい。だから協力してくれ。
「ニャー。フワァー」
クロはあくびをして、
ブッ!
屁をこいた。
なんてやつだ。自由すぎる。
そのままこたつに潜って、寝やがった。
あいつには僕の都合なんて関係ないらしい。
しょうがないので鏡の前で1人、話しかたと表情をつくる練習を重ねた。
20分ぐらい口を動かしていて気付いた。
僕は顔の表情をつくる筋肉が弱い。
作り笑いをしていると、すぐに口元が引きつる。
ピクピクする。
いかに自分が表情に乏しい人間だったのか、思い知らされた。
人に避けられるのは、無表情だったからなのかも。
まずは笑顔を構成する筋肉を鍛えるところから始める事にした。
何とか普通に笑えるようになりたい。
「普通」って難しいなあ。
それでは、また。