さみしさ指数、上昇中
午後1時ちょっと過ぎ。
玄関を開けるなり、師匠は僕を見て「ほう」と一言もらした。
「少しはましな見てくれになったな」
その言葉だけで、すべてが報われた気がした。
勇気を出してよかった。
イヤーマフを外して、こたつでくつろぎだした師匠に温かいコーヒーを用意した。
「おお、すまない。そうだ、これをやる」
師匠はバッグから、小さな四角い何かを取り出して僕に手渡した。
なんだろう?
手元で確認する。
「強力ワックス:スタイリングクレイ」と書いてある。
ヘアワックス。新品だった。
「クリスマスプレゼントだ。少し早いがな」
――そんな。悪いです、わざわざ僕なんかのために。
僕は師匠にワックスを返そうとした。すると師匠は、
「なんだと!そこに座れ!」と叫んだ。
久しぶりに説教が始まった。
内容は、
「何で返そうとした!?私の厚意をお前は何だと思っているんだ!」
「モテないお前のために870円出してワックスを買ってきた私の優しさを!気づかいを!反応を想像してほっこりした私のあの時間をお前はむげにするのか!?」
「人の気持ちはちゃんと受け取れ!ばか!」
という内容だった。
……うれしかった。
ただ、モテないというのは傷ついた。
でも、うれしかった。
そんなわけでヘアワックスは、ありがたくいただいた。
「人からきちんと気持ちを受け取ることも『与える』ってことなんだぞ。わかったか?」
――はい。
怒りを出し切ったのか、師匠は落ち着いた様子でレポートを書き始めた。
しかし、徐々に異常が現れた。
師匠の様子がおかしい。
ニヤけているのだ。
しかもいつものようなニヒルな笑いじゃなく、にっこりとしている。
――……ニヤけてますよ?
「ん?ああ、嬉しい事があるんだ」
聞いてくれオーラ全開だった。
僕はこの時点でどういうことか気付いてしまっていた。
しかし、聞くしかなかった……。
そう、明日はクリスマスイブだ。
恋人たちの夜が来る。
もちろん師匠とサトウ君(彼氏)もデートの約束をしているという。
その話を聞いた。
嬉しそうだった。
輝いていた。
「場合によっては、んふ、ふふふふふふ。……ちょっと怖い」
と言って、師匠は顔を赤くしていた。
ま・さ・か・!
ああああああああああああああああああああ!!
……。
そもそも、
悔しがる権利なんて自分にはない。
でも、なんでこんなに喪失感みたいなものに襲われるんだろう?
今年のクリスマスは例年に比べてハイレベルなさみしさ指数が叩きだされそうだ。
……。
それでは、また。