hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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なみだ

ボーっとしていた。

なにも考えたくなかった。

とくに昨日の事は。

 

午後1時。師匠がやってきた。

「どうした?」

僕がひどい顔をしていたのだろう。

師匠は怪訝な顔をしていた。

「怪我をしたのか?」

気付かれた。昨日石をぶつけられてできた傷に。

ちょっとまて、と言って師匠はバッグをがちゃがちゃひっかきまわした。

 

「これでよし」

師匠は僕の額の傷にばんそうこうを貼ってくれた。

それがどれだけ嬉しかったのかをどう表現すればいいのか、いまだに僕はわからない。

昨日のことを説明した。

――被害妄想って言われるんです。

「お前がそう思うならお前にとって本当の事なんだろう。この際、事実かどうかなんてどうでもいい」

師匠は真剣な目をしていた。僕は黙って言葉を待った。

「大事なのはお前がどう感じているかって事と、バカな考えを起こさないかってことだ」

僕は返事をしなかった。

 

どれだけ一生懸命になっても覆せない事がある。

生きていたって、つらいだけだ。

ならばひと思いに決着をつけるのだって1つの選択だ。

僕はそんなふうに思い始めていた。

たぶん、そのことを見抜かれていたんだと思う。

 

レポートを書き終えてから少しして師匠は唐突に言った。

「私が生きているのはこの世の中に大切なものがあるからだ。世話になってる人や、サトウ君、友達、バイトの仲間、それからここのブサイクとか、色々な。

その中にお前も入っている。だから、」

僕の目に違和感があった。

「バカなことは考えるなよ。お前だけいなくなるなんてズルいんだからな。地獄のようなこの世界で、お前も私と苦しんで、のたうちまわるんだぞ、わかるな?」

師匠は今までに見た事のない穏やかな顔で、僕の頭をぐしゃぐしゃになでた。

涙が出てきた。

僕の目からどんどんあふれた。

蛇口が壊れた水道みたいにボトボト出てきた。

――すみません。

「べつにいい。私だって泣きたい時は泣く。泣きたいだけ、泣け。ただし弱すぎる男はモテんがな」

 

じゃあ来年もな、と言って師匠は去って行った。

 

落ち込んでいくだけだから泣いてはいけない、とずっと思っていた。

でも実際泣いてみると、心が楽になった。

張り詰めていたものがほどけていった気がする。

泣けるのは今日だけかもしれないけど。

それでもいい。

生きてあの人の気持ちに応えたい。

それでは、また。