hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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マニアック

午後1時。

師匠がやってきた。

上機嫌だった。

ここに来る前に「アイハラ君」と会っていたらしい。

何か笑顔が弾けてるし、いつもよりやさしい。

うれしかった。でも、

くやしくもあった。

 

1週間の報告をする。

「頑張っているな、それで……」

――?

「いいかげん教えろ。どんな女を狙っているんだ?」

いたずらっぽい笑みを浮かべて師匠はきいてきた。普段は無表情で動じる事がほとんどないこの人も、恋の話になるとやっぱり変わるらしい。

この事に関しては「師匠」とか「弟子」とか関係なく対等に話せる気がした。それが嬉しくて僕はつい口を滑らせた。

――そうですね。裏表があるんです。でもすごくかわいいんです。

「裏表?駄目だそんな女。考え直せ。見た目だけで判断すると地獄を見るぞ」

師匠はげっそりした顔をした。本気で言っているんだな、と思った。

――でも、正直で、まっすぐで、優しい人です。あと、強いです、すごく。

「待て。裏表があるのに正直でまっすぐで、やさしい?人格破綻者か?マニアックだな、お前」

僕は半ばあきれながら、心の中であなたです、とつぶやいた。

「それに、強い女は扱いが面倒だぞ。お前の手に負えるのか?まあ、好かれれば何とかなるかも知れんがな。そうだ、弱点とかはないのか?」

――ちょっと不器用な感じもします。

「ふーん」

そう言うと師匠は、コーヒーのミルクの空をゴミ箱に投げ入れた。

礼儀とか、行儀とかにうるさいこの人がこんな事をするのは珍しい。よほど気分がのっているのか、心を許してくれているのか。

「わたしもな」

――何ですか?

穏やかな顔。ベランダから日差しが降り注ぐ。部屋の中でスポットライトに照らされたように笑顔が輝く。

まぶしい。

惚れてまう。いや、惚れています。

と、思っていると師匠は死刑宣告を下した。

「……好きな人ができた」

 

やっぱりあの「アイハラ君」が好きだと言う。

僕は腹の底から、小さく声を絞り出した。

――がんばって……ください。お、応援します。

「おう。ありがとうな。お前も頑張れよ」

にっこり笑う。

かわいい。

 

告白しても振られる事はわかっている。

でも、こう何度も振られるのはきついです。

……あああ。

それでは、また。