hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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役割

午後1時。

師匠はやってきた。

カーキのモッズコートに、ピンクのリボンという甘辛コーデだった。

 

「お~、ブサイク!元気だったか!?」

「ニャー!」

両手を出す師匠。飛びつくクロ。

すごくなついてる。僕以上かもしれない。

「ははは。くすぐったいわ」

師匠の胸元に顔をうずめるクロ。

……うらやましい。

 

「かわいいなあ。ブサイクは」

言葉が矛盾している気がするが、何だか嬉しい言葉だった。

僕は微笑む師匠に素朴な疑問をぶつけてみた。

――ドラゴンってみんなクロみたいな感じなんですか?

「私も詳しく知らないが色んなのがいるらしいぞ。こいつみたいにブサイクな奴とか、ごっついのとか、ぬめぬめしたのもいるらしい」

ぬめぬめ……。

僕は気持ち悪い生き物を想像して、身震いした。

――そういう生き物に生まれなくてよかったです。

と言ったところで僕は思った。

そういう生き物。

ゲテモノ。

今では近所の人とあいさつしたりできるようになったけど、ちょっと前までは僕だってそういう扱いを受けていた。

石を投げられたり、この辺ほっつき歩かないでと言われたり……。

その扱いはまるっきり「ゲテモノ」だと思う。

つらかった。今でもそういうふうに僕を見る人はいるし。

「どうした?難しい顔をして」

僕は師匠に近所での自分の評判や、それに対する自分の気持ちを説明した。

すると師匠は真剣な面持ちになって言った。

「そいつにしか果たせない役割というものがある」

――役割?

「人の役に立つことや、嫌なことを引き受ける事、責任をとる事だ。簡単にいえば、仕事や家族の問題、人間関係だ。人はそれを引き受けなければならん事がある」

――じゃあ僕が石を投げられたり、笑われたりする事も役割で、それはしょうがない事だって言うんですか!?

自分でも声を荒げてしまった事には気づいてはいた。

でも抑えられなかった。

だが師匠は、眉1つ動かさず淡々と続けた。

「場合による。逃げたきゃ逃げればいい。最悪、自分の命から逃げなければ何とでもなる。追いつめられて逃げられん奴もいるがな……」

師匠の顔が曇る。

師匠も引きこもりをしていた、という事を僕は思い出した。

「ただな。役割を引き受けて応えていればいいことだってある。例えば弟子が元気になって外に出られるようになるとか、な」

――師匠。一生ついていきます。

けっこう本気で言った。

「ついて来なくていい」

――ひどい。

僕たちは笑った。

 

 理屈だけじゃ何の助けにもならんな、と言って師匠は僕にアドバイスをしてくれた。

とにかく元気でいろ。声を大きく、笑顔であいさつ。

人の悪口は言うな。愚痴ったら運も人も逃げる。

あとは目の前の人を大事にするんだ。

と、色々言った後で「私も出来ていないがな」と苦笑い。

僕はいつまでもこの人と話していたい、と改めて思った。

恋とは違う意味で。

僕にもし父親がいたらこんな感じだったんだろうか、と。

 

師匠が帰っていく時、

玄関から、離れていくピンクのリボンを見えなくなるまで見つめていた。

何だか嬉しいような、懐かしいような、不思議な気分だった。

それでは、また。