しわしわの手
僕は今、自分がどれだけ外に出て適応できるかの実験を行っている。
昨日は散歩をした。1時間。
無人状態だったので何ら問題はなかった。
今日は有人環境へ突入した。
「サトウ商店」だ。
近所にある雑貨屋。
お菓子、たばこ、各種洗剤、何と猫のトイレの砂まで置いてある。
半年ほど前、今より人と外に耐性のなかった僕が挑戦し、買い物に成功した店でもある。
それで、いつもは入店して5分程で退散しているのだが、今日は粘って10分ほど滞在する事を目的とした。
雨の中、傘をさして店に向かった。
通販で買った、歩きすぎて歪んだムートンブーツのつま先から雨が入ってくる。
冷たい。
靴下も濡れたけど、まあいいや、って歩き続けた。5分もかからない。
サトウ商店。
木造の古い建物だ。看板のペンキもはげたり欠けたりしてる。
入店。
トゥルルル、トゥルルルと、どこか懐かしいアラームが鳴る。
後ろ手で引き戸を閉めていると、いらっしゃいと、と店主のおじいさんが出てくる。
僕にとってあんまり怖くない人の1人だ。
で、考えた。
どうやって10分粘るのか?
会話するか、ショッピングに専念するか。
ちょうど今、ボディソープを切らしていたのでその代わりを探してみた。
ない。
石鹸を発見。しかしパック売り。こんなにいらないな。
おじいさん店主に相談。ばら売りしてもらう。
しわしわの手で石鹸の外装フィルムをはがし、1箱手渡してくれた。
1個105円。箱から出してないのにフローラルの香りがした。
それから10円のガム5個と、クロへの手土産として30円のサラミを5本、レジの前にある甘辛カレーパンを1つ買った。
支払いを済ませておじいさんと少し話す。
孫が野球を頑張っていて、じいさんは腰痛に悩まされているらしい。
世間話も少々した。
最後に、彼女作れよ、とか言われた。
僕はなぜか知らない人に彼女作れって言われる事が多い。
彼女欲しいけどできないんです、と言って少し笑った後、店を出た。
普段話さない人と話すのも楽しい。
今日も調子を崩す事はなかった。
いい感じだ。
それでは、また。