内職と指と爪の間
今日は実家の母に呼び出された。
内職が忙しいので助けてくれと頼まれたのだ。
雨の中、傘をさして歩く。
それでも風が強く、足元はずぶ濡れになった。
雨で景色が白く煙る中歩き続けると、視界の端にピンクが見える。
神社のふもとに何本かの桜が揺れていた。
朝、公園に散歩に行った時も桜が咲いていた。
近いうちにお花見をしようと思う。
これから帽子が売れるシーズンなのか、母の内職は忙しい。
仕事内容は、
1、帽子の製造過程で出た不要な糸をハサミでカットする。
2、値札をピストル型の器具で帽子に取り付ける。
3、たまに紐通しとか、日よけとかオプションを付ける。
4、帽子に全く関係ないものも来る。きんちゃく袋作りとか、布のアイロンがけとか。
普段は1日に帽子100個くらい。
だがここ数日は1日に350、多いと400個来る事もある。
T課長も容赦がない。
なので母は、「腰が痛い」「背中がしびれる」と訴えてくる。
そんなにきついなら休めばいいじゃん、と僕が言うと、
そんなことできるわけないじゃない!と母はキレる。
という訳で、僕が手伝っている。
母が糸切りを担当。僕が札付け。
2か所にそれぞれ4枚と1枚。
「メイドインジャパン」の札や、「UVカット率99%」の札だ。
時間がなかったので、ガシガシ取り付けていく。
数年前、最初に手伝っていた頃はよく指に針を刺して悶絶していた。
1回指と爪の間に針を刺した時は「2度とやるか、こんなもん」と思った。
それでも慣れてきてテンポよく作業ができるようになると、やれるじゃん僕!と得意になったりもした。
ちなみに僕は給料はもらわない。
そのかわり、「じゃがりこ」や「ブラックサンダー」をエサとして与えられている。
実に安い助っ人料だ。
しかし内職の決して高くない給料から考えると、それでも母は赤字かもしれない。
午前中に始めて、終わった時には午後2時を回っていた。
「ああ、疲れた」とか言いながらコーヒーを飲んでいると、母が1枚のチラシを見せてきた。
求人広告。
毎週日曜日の新聞に入っているやつだ。
それで、見つけた。
掃除のバイト。
1日2時間。
週休2日。
近所のスーパーの開店前の掃除らしい。
正直、僕は長時間働ける自信がない。
なので、2時間というのは魅力的だ。
加えて近所のスーパー(いつも行っているところ)なので、自転車でも通える。
やってみたいと思ったので、チラシをもらってきた。
挑戦してみようと思っている。
でもちょっと怖い。
どうしよう。
うーん。
それでは、また。