hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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井戸端会議

先週バイトの面接に行って結果待ち。

担当の人は「来週の頭には連絡する」と言っていたのだけど、まだ連絡はない。

落ち着かない。

ずっと家にいても気分が塞いでくる。

なので、朝のうちに一通りの家事を終えた僕は桜を見に外へ出かけた。

 

近所の公園の裏に桜の木。

力強い枝のこげ茶と、はらはら舞い踊る薄紅色の花びらに心を奪われる。

10分程そこで花見をしていた。

すると、背の低いおばあさんに声をかけられた。

「あんた高校?大学?就職?」

身分を聞かれたようなので、正直に成人はしてますと答えた。

大きくて印象的な瞳を持つ人だった。

「あんた年わからんねえ。わしは81歳だよ。満・年・令!」

――おお、長生きですね。めでたい!

「だろう~!?」

にっこり笑ってくれた。

年をとると人は童心に帰るというけど、子供のような笑顔だと思った。

「わしの息子たちは――」

そこからおばあさんの息子自慢が始まった。

何でも幼いころから2人の息子さんは聡明だったらしく、ここらでも名の通った高校に通い、北九州とかアメリカとかの大学に進学したらしい。今は大きな会社で働いているという。

自慢話なんだけど、おばあさんは生き生きと楽しそうに語るので、いくらでも聞いていたいと僕は思った。

――すごいですね。

「そうだろう~?」

おばあさんは笑いながらいきなりガシッと、僕の腕をつかんできた。

ドキッとした。

だが、全く警戒されてないことがはっきりわかって、僕は嬉しかった。

 

「彼女はおらんのか?」

――残念ながらいないです。

「わしと旦那は――」

おばあさんと旦那さんの話が展開された。

恋愛結婚ではなく縁談で一緒になって、60年ぐらい寄りそっているという。

――60年色々あったんですね。

僕がそういうと、おばあさんは少し暗い顔をして遠くを見て一言、

まあな、と言った。

60年というのはとてつもなく長い年月だと思う。

僕は両親が離婚しているので、「結婚」や「夫婦」と聞くと真っ先に「離婚」という言葉を連想してしまう。

2人の間に愛情が生まれたのか、時代的に離婚という選択肢がなかったのか、それとも何かほかに理由があって一緒にいるのか。

さすがにストレートに聞くことはできなかった。だが、

「わしは車の免許はもっとらんのだが、この年だし取らんでいいと思っとる。旦那が好きなとこ送り迎えしてくれるしの」

夫婦関係はうまくいっている事がぼんやりと想像できて、僕はホッとした。

 

「あんたは、仕事は?」

――してないです。

「バカ!」

いきなり「バカ」と言われたので僕は驚いた。

人に「バカ」と言われるのは小学校以来の事だ。

「ちゃんと働かんといかんだろうが」

――いえ、バイトの面接は受けて、結果待ちなんです……。

「そうか。頑張って親安心させろよ~」

おばあさんは腕時計を見た。

「ああ!しゃべっとる場合じゃない、モーニング終わっちまう。『スイング』いかんと!」

『喫茶スイング』のモーニングは午前11時までのようだった。

「じゃあ、またな」

――それじゃあ、また。

こうして僕の人生初の井戸端会議は終わった。

にっこり笑ってくれたり、腕をつかまれたり、「バカ」って言われたり。

様々な刺激のあった会議だった。

 

バイトの面接結果の連絡はまだない。

それでは、また。