強い視線
今日は、町の運営する無料バスでスーパーへ。
買い物は普通にできた。
もう人目も気にならない。
時間があったので自販機のそばにあるテーブルで昼食をとることにした。
しそ梅おにぎりと、惣菜屋の「ちびっ子メンチ」、スーパーオリジナルブランドのお茶の300円セットを食べ終わると、僕はバス停へ向かった。
そこには、おばあさんが2人いた。
「いい天気ですね」とか「どこから来たんですか」とか話す。
しばらくすると、そこにおっさんが1人現れた。
スーツ、と言っていいのかわからないが、グレーのジャケットと中に白いカッターシャツを着ていた。
禿げているのだけど、残りの髪をオールバックにして、ジェルかなんかで固めていた。
一言で言うと、清潔感のある人だった。
おばあさんたちに「このバスどこ行くの?」と質問。
2人はあんまり詳しくないらしく困っていた。
「兄ちゃんわかるか?」
まっすぐに、視線を向けられた。
あまりにも強い視線だったので、僕は咄嗟に目をそらしてしまった。
それぐらい、強い眼差しだった。
自分に自信を持てない僕にとっては、強烈過ぎた。
おっさんは「イオン」というデパートに行きたかったという。
僕は何とか行き方を説明できた。
それで、そのあと僕とおっさんは色々話した。
おっさんは勢いのある人で、その場にいる人を巻き込んで楽しくしゃべり続ける。
明るくて、人見知りとかしないんだなあ、と僕は感心した。
おっさんは、年金暮らしで暇を持て余しているという。
そのため、暇つぶしに1日5店舗くらいスーパー巡りをしているそうな。
散歩が趣味らしく、僕の住んでいる地域の事にもかなり詳しかった。
おっさんと話し、バスの時間が近づくにつれて、人が増えてきた。
そして、1人のおばあさんを見て、おっさんは反応を見せた。
「○○さん!久しぶり!」
おばあさん、小さく笑う。
知り合いなんですか?と僕が聞くと、
「おう、1回やった人だ!」と答えた。
意味がわからなかった。
何を「やった」のか?
聞こうとしたのだけど、他の人たちは爆笑してるし、おっさんはおばあちゃんとマンツーマンになったので、割り込むすきが無かった。
というか、普通に聞けないし。
僕はそっち方面の話かと思いつつ、失礼かもしれないのでそれ以上考えない事にした。
周りの人たちは笑っていたから、わかっていたんだろうか?
……世界は謎だらけだ。
その後もおっさんは喋り続け、場を盛り上げていた。
バスが着くと、おっさんは入口の所に立って他の人に先を譲る。
「レディーファーストだ」とか言っていた。
バスの中でもおっさんは喋り続けた。
僕は思った。
根拠ははっきり説明できないのだけど、この人、元々は大人しい人じゃないのか、と。
ただ明るいとか、ただ元気、ではなく孤独を内に秘めている、そんな印象を持った。
まんべんなく人に話題を振ったり、聞くところはきちんと聞く、きちんと相手の目を見て話す。
そういうおっさんの挙動を見て僕は、素直にすごい人だと思った。
それに、たぶんおっさんは人間が好きなんだろう。
僕はそのことがとても素敵なことだと感じられた。
いい人と遭遇出来た。
僕は、あんなおっさんになりたい。
それでは、また。