おねだり
皿洗いを終えて掃除機をかけていたら、母から電話がかかってきた。
「今スーパーにいる」と。
用件は?と聞く。
「スキニーのズボンが欲しい。お金出してくれない?」
僕は、やだ。と答えた。
すると、
母は「じゃあ、いい」と言って通話を切った。
そのあと、なぜこのタイミングでかかってきたか考えた。
すぐにわかった。
明日は母の日だ。
僕は毎年、母に何かをプレゼントしている。
母はたぶん、その事を前提におねだりしてきたんだと思う。
ちなみに今回はすっかり忘れていた。
言ってくれればいいのにと思いつつ、もう1度電話がかかってきたら応じようと思った。
電話がかかってきた。
しかも丁度僕の思考が固まったあたりで。
思考を読まれているのかもしれない。
「2500円の20%引きっていくら?」
――2000円だけど。
「安いと思わない?」
テレビの通信販売みたいな攻め方だと思った。それで、
「半分出して」と要求してきた。
母は若い頃、魔性の女だったと自分で言っていた事がある。
よく男の人にご飯をおごってもらったり、色んなところへ連れて行ってもらったり、プレゼントをもらったりしていたという。
景気のいい時代だったらしい。
そのころの名残なのか、母は何かをプレゼントされる事が大好きだ。
僕はできる範囲でそれに応えている。
でも、母の日をはじめ敬老の日、誕生日、クリスマス、と多段攻撃を仕掛けてくるのは勘弁して欲しい。
結局僕は、わかった、と電話越しに応えた。
母はうれしそうな声で「ありがとう!」と言って通話を切った。
彼女が嬉々として買い物をする姿を思い浮かべて、僕は小さく笑った。
それでは、また。