カメ
僕は、カメを飼っている。
名前は「ミルク」という。
性別は、わからない。
ホームセンターで買ってきた。1年ぐらい前に。
世話をしている。
水の交換、掃除、ごはん、甲羅の洗浄。
一生懸命やっている。けっこう話しかけてもいる。
しかし、なつかない。
水を替える時に水槽から出す。
そのとき、フシャー!と威嚇される。
噛みつかれた事もある。
洗濯バサミでゆるく挟まれたくらいの痛みだった。
一度風呂場で手元から落としてしまった事を恨まれているのだろうか?
僕はミルクの事をかわいいと思っている。
あくびをする姿もかわいいし、顔を洗う仕草だって愛おしい。
見ているだけで、癒される。
同時に。
負い目がある。
何の権利があって僕はミルクを水槽に閉じ込めているのか、と。
僕はホームセンターで680円、払っただけだ。
それだけのことで、あいつの自由を奪ってしまっている。
あいつは外に出たいんじゃないか?
広々とした世界で自由を謳歌したいんじゃないのか?
もちろん、放流したりするのはルール違反だと思う。
だから、それはできないし、しない。
水槽から出られないミルクを見ていると、閉鎖病棟にいた時の自分を思い出す。
鍵のかかった施設で、自由のない日々。
世話をされるだけの生活。
ここから早く出たい。外の世界に行きたい!
そんな事をミルクも考えているのではないか?
申し訳なさでいっぱいだ。
せめて、ご飯をちゃんとあげて、住環境を整え続けよう。
それだけは、僕かミルク、どちらかがいなくなるまで続けようと思う。
それでは、また。