じっちゃん
毎日、散歩中に通りかかる家に飼い犬がいる。
僕はいつも、その犬に吠えられている。
その犬の飼い主のおじさんが、いいひとだ。
通称「じっちゃん」。
以前、お孫さんにそう呼ばれているのを目撃した。
以来、僕は彼の事を心の中限定で、じっちゃん、と呼んでいる。
じっちゃんは、家の庭でガーデニングというか、畑仕事をしている。
このあいだ「ネギ食べるかい?」と聞かれた。
食べます、と答えると、けっこうな量のネギを手渡してくれた。
僕はそれをフライパンで炒めてから、ハンバーグの添え物にしてみた。
おいしかった。
じっちゃんには、今までけっこうな量の野菜をいただいている。
水菜、じゃがいも、にんじん、きゅうり、この間のネギ、とか。
それで、ネギをもらった時もちょっと喋った。
色々作ってますね、と話を振ると、
「今は、ジャガイモとオクラを作っているんだよ」と言っていた。
ジャガイモは、お孫さんに「ひっこ抜きたいから、作って」とリクエストされたという。
オクラの方も、お孫さんの大好物だそうだ。
お孫さんが大好きなんですね、と僕が言うと、
じっちゃんは柔らかく笑った。
お日さまのような笑顔だと思った。
僕は数年前まで、薬の副作用にてこずっていた。
表情が硬く、無表情な事もあって僕の事を「ゾンビ」などと呼ぶ人もいた。
そんなときも、じっちゃんは僕に対して普通に接してくれていた。
僕にはそれがとても、うれしかった。
なので、すごく信用している。
じっちゃんには長生きして欲しい。
最近、ネギを刻みながらそんな事を思っている。
それでは、また。