駄目に
僕には劣等感があった。
病気になって入院して、それから10年ぐらいずっと引きこもっていた。
なので、就職した事がないし、外に出て何か経験を積んだわけでもない。
自分は人生経験が平均的な人に比べて少ないんじゃないだろうか。
外の世界を知らずに年だけとっていく。
身体は加齢していくのに、心は幼稚なまま。
それを人に見抜かれたら軽蔑される、そんなふうに思っていた。
焦り続けていた。
なので、少しずつ自分にできる事を増やしていった。
まず、昼夜逆転を戻した。
それから、散歩に出るようにした。
笑われながらも、スーパーやコンビニへも行った。
だいぶ、外に出ることに慣れた。
人間も嫌いじゃなくなった。
それでも、漠然とした劣等感、「自分は駄目な人間だ」というイメージは残っていて、時折やりきれなくなったりする。
今日、ある1冊の本を読んだ。
芸術家の本だ。
芸術は爆発らしい。
パッションにあふれた人柄、生きる意志にあふれている。
心を揺さぶられた。
その本の一節にこういう言葉があった。
「よし、駄目になってやろう」。
衝撃を受けた。
駄目になってやろう?
駄目に、なって、いい?
――よし、駄目になってやろう。
僕は確認するようにつぶやいていた。
正直、駄目なものは駄目だと僕は思う。
それでも、「駄目になったっていいじゃないか」という心の広い言葉に、感動した。
何かゆるされたような、心の枷を外してもらえたような気がした。
いま、僕の心の中に自由の風が吹いている。
いい本を読めた。
ちゃんと駄目になろうと思う。
せめて駄目になろうと思う。
それぐらい挑戦できたなら、駄目じゃないと思うから。
それでは、また。