眉毛
眉毛には気をつけている。
1週間に1度は眉掃除をしている。
カミソリで無駄毛を剃り、
はさみで長さを整え、
コームを当てて濃いところを間引く。
僕の眉毛は濃いので、放っておくと左右がつながってしまう。
それを阻止するため、こまめに手入れをしている。
気にしている。
気にしているのには理由がある。
高1の春。
新学期。
僕は眉毛がボーボーだった。
それをクラスの女子2人組に笑われた。
「もっさい」とか「ダサい」とか、陰口を言われていた。
向こうは僕が気づいている事に気づいていなかったと思う。
傷ついた。
が、放っておいた。
そのうち飽きるだろう、と思ったからだ。
だが、だんだん事態はエスカレートしていった。
何とあの子たちは、歌を歌い始めた。
僕がダサいという歌を。
へこんだ。つらかった。
今よりも心が弱かった僕にはきつかった。
とはいえ。
面と向かって罵倒されるとか、他に危害を加えられたわけでもないので、いじめの範疇でもない。
ただ、笑いのネタにされるのはきつかった。
かと言って、眉毛を整えるのも、癪だった。
なんか「負けた」みたいな気がするから。
今振り返ってみると、僕は意固地になっていたのだと思う。
結局そのまま、ボサボサ眉毛をネタにされる生活が1か月ほど続いた。
ある時、2人組が例の歌を歌っている時に、僕が偶然出くわした。
互いに、無言。
時が止まった。
僕は、「ふざけんなよ」とボソッと文句を言うので精一杯だった。
その夜、姉に相談した。
どうすればいいんだ?と。
姉の答えは。
「グダグダ言ってないで、眉毛を整えろ」だった。
他に何の手だても思い浮かばなかったので、僕はその言葉に従った。
姉に眉毛セットを借りて、眉カットに挑戦した。
全く経験がなかったので、ぎこちない。
カミソリで目と眉の間を切ったり、眉山を削ってしまったり。
失敗したら余計笑われる。
ミスは許されない。
しかも、成功してもそれはそれで笑われるかも、という心配もあった。
初めて自分でやる眉カットはうまくいった。
そうしたら、
あの2人組に笑われる事が無くなった。
というか、普通に話しかけてくるようになった。
僕は驚いた。
眉毛1つでこんなに扱いが違うものなのか、と。
ひどく理不尽だと思ったのを覚えている。
それで、あの時の2人組の歌は未だにトラウマとして残っている。
という訳で、僕は眉毛を気にするようになった。
病気がひどい時はサボっていたけど、最近はちゃんと手入れをしている。
とはいえ、僕は不器用だ。
未だに眉を剃った直後は肌がヒリヒリする。
その痛みを感じる度に、あの頃の事をちょっぴり思い出す。
負けてしまったのか、勝って乗り越えたのか、判断のつかない思い出だ。
それでは、また。