言葉の力
たちの悪い冗談を実行した。
僕はけっこう前に、ある本を読んで心を動かした。
そこにはこう書いてあった。
「人間、感謝が大事」と。
さらに、「気持ちは言葉にしなきゃ駄目だ」とも。
僕はそれを実行した。
母に対して「育ててくれて、産んでくれてありがとう」と言った。
最初は母も照れていた。
僕はそれが何だか面白くて、悪ノリした。
言いまくった。連発した。
小さな事から、大きな事まで、関係ない事でも、何があっても「産んでくれてありがとう」。
ジュースを買ってきてくれたら、「産んでくれてありがとう」。
そうめんを茹でてくれたら、「産んでくれてありがとう」。
スキンケアのクリームをもらっても、「産んでくれてありがとう」。
怒られた。
ふざけているのか?と。
もちろん、ふざけていた。
今思うと、不謹慎だった。
それで、繰り返すうちに母は無反応になっていった。
また馬鹿なこと言っているよ、というふうに。
ところが逆に、僕の中で変化が生じた。
本当に「産んでくれてありがとう」という気持ちが湧きあがってきた。
母が産んでくれなかったら、ここに生きている事もなかったのだし、
誰かや何かを大切にする事も出来なかった。
もっといえば、ネガティブなこと、恨んだり、憎んだり、そう言うあんまりありがたくない事すらできなかった。
生きているってすごい事だ。
だからこそ、「産んでくれてありがとう」。
最初はただの冗談だったのだけど、言葉の力はすごいと思う。
心が変わったのだから。
それで、いま、困っている事がある。
母に感謝を伝える言葉が見つからない。
「産んでくれてありがとう」と言ってもギャグにしか思われない。
何か他に適切な言葉はないか、探しているところだ。
それでは、また。