声
カップラーメンの完成を待つ時間中、歌を口ずさむ。
基本アニソン。
感情をこめて歌う。
きっと気持ち悪いだろう。誰も聞いてないからいいけど。
サビのところに来た……地声に切り替える。
高い声は出ない。大声で挑戦したら、アパートの隣の部屋の人が壁を蹴った(あるいは殴った?)。
それ以来小声、裏声で歌うことが多い。
中学生の時自分の声をカセットテープに録音して、愕然としたのは秘密だ。
二十歳、病気を発症して閉鎖病棟に入院した時、同室の男が夜中にギターをかきならし歌っていたことを思い出した。
やつも、病室にカセットデッキを持ち込んでカセットテープに自分の声を録音していたなあ。
ものすごくうっとうしかった。
でも、何も言えなかった。
自分もやっていたことを思い出したから。
「何か自分に特別な才能があったなら……」
中学生の頃の自分も、病棟のあの男もそんな淡い、決して叶わない願望を抱えていた。
スターになる!とわめいていたあの男は今なにをしているんだろう?
生きているのかどうかさえもわからないけれど。
出来るならあの下手な歌をもう一度聞いてみたい。
……いや、聞かなくていいや。
それでは、また。