hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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卵と女の子とカッターナイフ

来た。

二つ来た。

朝、宅配便。いつもの宅配のおじさんが届けてくれた。

差出人は、数日前のダイレクトメールの会社(たぶん架空)と同じ。

荷物の種類は「たまご」。

本当に来た!

笑いをこらえながら受け取った。なんて手の込んだいたずらだ。

中くらいのダンボール箱。軽い。

とりあえず床に置いて、食べかけのカップラーメンを急いで食べる。歯を磨いてから、箱を開いた。新聞紙がぎっしり。その中心に、リンゴなんかを包むようなネットにくるまれた、卵があった。

ほんとに来た。

大きさは鶏のやつより一回り大きいくらい。でも、色がやばい。黒地に蛍光のピンクでまだら模様が浮かんでいる。これがドラゴンの卵だというのか?

手の込みすぎたいたずらに、ちょっと動揺した。

他には白い紙きれが一枚。

「こちらがドラゴンの卵になります。一年間大事に育て上げて下さい。詳しいことは調査員にご確認ください。本日の正午ごろにそちらにうかがうことになっております。」

調査員?来るの?ここに?

やばい。ぜったいやばい。金を取りに来るんだ。

でも、ここまでする必要があるのか?

まあ、返信した自分もどうかと思うけど。

ヤンキー風の男が脅しをかけてくる画を想像してゾッとした。いや、まあ、来ないだろう。

 

午後一時を回ってから、来た。

玄関のチャイム。ビクッとしてしまった。しばらく固まっていると、また鳴った。

もうどうにでもなれ、とドアを開く。

いた。ただしヤンキーの人でなく、女の子だった。

見た目の年齢は大学生くらい。ちょっとだけ染めてある髪は胸のあたりで風に揺れている。肩に穴のあいた上着に、ふわりとしたスカート。印象を一言で言うと、女の子らしい女の子。

「あ」

目が合う。ドキッとした。彼女は緊張したような顔をしていたが、僕を足元から頭までスキャンするように見ると、あからさまに嫌そうな顔になった。

沈黙。気まずい。

「ドラゴン。わかる?一人暮らし?」

低いというか、ドスの利いた声だった。

あ、はい。と答える。本当に「調査員」なのだろうか?

彼女はバッグの中をがさごそいじって何かを取り出した。

カチカチカチ、と。それは、カッターナイフだった。両手で構えてにらんでくる。

怖い。

「いいか、今から私は部屋に入るが、妙な事をしたらすぐに刺すからな。わかったな?返事は?」

コクコクうなずくので精一杯だった。すると、許可を求めることもなく彼女は部屋にあがりこんだ。

その後ろ姿をわけがわからないまま追いかけた。

ドラゴンの卵はどこだ、と聞いてきたので、こっちです、とダンボールに入ったままの卵を見せた。カッターを持ったままデジカメを取り出して、卵を撮影しだした。意味が全く分からない。とにかく説明がほしかった。

あの、どういうことなんですか?勇気を出して声をかける。

「私に話しかけるな」

冷たく言い放ったかと思うと、またバッグから何かを取り出し、投げてよこした。

修学旅行のしおりみたいな冊子だった。

「ドラゴンとの楽しい里親生活 ガイドブック」と表紙に書いてある。

読めばわかる、ということなのだろうか?

僕は困惑するしかなかった。

「終わった、帰る」

ぼそっと言ったかと思うとデジカメをしまって、すたすた玄関へ歩いて行く。

僕はまた馬鹿みたいに後についていく。

彼女は部屋を出る時に、「また来る」とつぶやき、そのままどこかへ行ってしまった。

全然状況が理解できない。ただ、自分が調子を崩していることには気づいた。

急いで、ヒルナミンを飲んで横になる。そのまま軽い眠りについた。

 

さっき起きたばかり。リビングにダンボールと卵がある事を確認した。

あれは夢じゃなかった。まだ混乱している。

とりあえず今からガイドブックを読むことにした。

それでは、また。