その気持ち、わかるよ
今日は二週間に一回の病院。
僕の通う病院は開院何十年を超えていて、精神科と内科がある。
滝が流れるロビー、にこやかなスタッフ、五階建ての入院病棟。最近外装を塗りかえたばかり。ホールのテレビには、外国のドキュメンタリー番組が無音で流されていることが多い。
僕はここの精神科に10年以上通院している。今日は外来の患者がたくさんいた。ちょっと緊張。
いつも通り、調子はどう?変わりません。を終わらせて診察室を出ると、
「何でそんなに冷たいんだよ!俺は信じてたのに!」
男の絶叫が響いた。
隣の診察室の入り口で叫んでいた。職員に取り押さえられる。
「何でわかってくれねえ!」「俺の気持ちはどうでもいいのかよ!」
叫び続ける。
詳しい理由はわからないが、何となく察しはついた。
温度が違う。
僕は最初に受診した時そう感じた。
精神的に追い詰められて、誰にも相談できない、もうどうしていいかわからない。
周りに病院を勧められる。
自分は狂ってなんかいない。そう主張するも、つらい。
数回の葛藤、周囲との間に距離ができる。
決心して受診。
自分のことを分かってほしい。力を貸してほしい。話を聞いてほしい。
一人きりで悩んでいた僕はそんな気持ちでいっぱいだった。
でも、お医者さんは、「薬を出しておきますね」「それは妄想です。幻聴です」「周りに迷惑をかけていますよ」。
全ての医者がそんなことをいうわけではない。間違ったことを言っているわけでもないのもわかる。
でも僕は傷ついた。
たまたま最初にかかった担当医だけの意見かもしれない。
だけど、わらをもすがる思いで暗い部屋から飛び出してきて、誰にも言えなかったことを「告白」する僕と、冷静に「診断」する医者の間には、明らかな温度差があったように感じられた。
今日叫んでいた男もそんなことを感じていたのではなかろうか?
しばらくしてサイレンの音。
パトカーが来た。
ちょっとひどい。
それでは、また。