五分間以上
昨日はあれから、玄関を出て五分程ぼーっと座っていた。
「出た」ことは「出た」ので、セーフだと自分では思っている。
誰にも会わなかったので、調子は崩れなかった。
僕は「外に出ること」を恐れているのでなく、「人に会うこと」が怖いのだと気付いた。
師匠との約束を守れたことが嬉しかった。
今日は病院へ行く日だったが「頭が痛くて動けない」と言って、母に薬だけ取りに行ってもらった。
さすがに生まれたばかりのクロに、長時間留守番させるわけにはいかないと考えたからだ。
病院をさぼる理由が、体調不良と言うのもおかしな気がするが、うまくいった。
外に出た、引き続き今日も五分間。
ちょっと焦った。
人に出くわしたのだ。玄関の前でぼけっとしていたら、声をかけられた。
白髪で白ひげで太っているおじさん、隣の部屋の住人だ。
少ししゃべった。
内容は、オリンピックが日本で開催されることや、最近の若者がどうだとか、「息子が結婚しねえんだよ」とか、要するに世間話だ。
結構人と話せてるよ、僕!と興奮していたら、最後に一言。
「お前さんも彼女ぐらい作れよ!」
どうして僕に彼女がいないとわかったのだろうか?
謎だ。
見かけか?
外見で判断したんですか?
……まあ、いいや。
そんなこともあったけど、今日も無事調子を崩さずに課題をこなせた。
それでは、また。