歯を磨く。行くところがないから。
噛み砕く。ばりぼりと。
噛み砕く。ドラゴンの餌を。
どう見てもキャットフードのスナックみたいな物を、うちのクロ(不細工なドラゴン・生後二週間とちょっと)は、ガンガン食べている。
歯が生えたのだ。離乳食は卒業だ。手間が省けてうれしいのだ。
ただ、歯磨きはしっかりしている。
ドラゴンが虫歯になるのかどうかは、わからない。
たぶん肉食だから歯は強いと思うのだが、サメのように何度も生えかわる保証はないし、定期的に口の掃除をしないと衛生的な問題も起こるだろう。
何よりも、虫歯になっても獣医に連れて行けないのだ。
うちのドラゴンが虫歯になったんですけど、診てもらえませんか?とは言えない。
それに、飼い主の僕の怠慢を自覚したまま、どんな顔をして連れて行けばいいのかわからない。
仮に訪ねたとして、待ち時間中に僕が発作を起こした場合、どうにも打つ手がないのだ。さらに、僕自身も獣医さんと関わったことがない。
知らない場所に行くことは正直怖い。調子を崩す確率が高いから。
せこい話をすると、お金だってない。
だから、磨く。
嫌がっても磨く。
無理やり抱っこするとクロは「ブ―」と鳴いて抵抗する。
豚かお前は?
虫歯になったら、お前が痛い思いをするんだぞ。おとなしく磨かれてくれ。
僕も歯は毎食後磨いている。歯医者が苦手なのだ。怖いのだ。痛みじゃない。人が。
例えば僕の担当の人がちょっと席を外すとする。その直後、後ろから笑い声が上がったりするともう自分のことを笑われているとしか思えないのだ。
被害妄想かもしれない。理屈では分かっているつもりだ、しかし、考えていることと、感じることは必ずしも一致するわけじゃない。
実際に調子を崩したこともある。足が震えて止まらなかった。たぶん、変な奴と思われただろう。
やっちまった。
そういうわけで歯医者は怖いのです。
それでは、また。