ダイエット、小説、バジル。僕は折り紙。
いつも通りレポートを書き終えると、師匠は新しい課題を言い渡してきた。
「やりたいことをやれ」
意外だった。僕の予想では「買い物に行く」とか「人に挨拶する」とか、何か外に出ることの延長だと思っていたからだ。
「やりたかったけど、やらなかったことなら何でもいい」という。
――うーん。出てきません。
「何でもいい。そうだな、例えば私は……」
ダイエット――3キロの減量に成功したらしい。師匠はウエストが細くなったと言って、両手で腰を押さえ、キュッとポーズをとり、「どうだ」と勝ち誇った顔で見つめてきた。少しドキッとした。
読書――100冊を超える大長編を55巻まで読んだという。あらすじからキャラクターの魅力まで、いきいきと語った。普段無口だけど、好きなことに関しては積極的にしゃべる人だったのだと気付いた。
「ああ、それから」ガーデニングにもはまっているという。この間バジルを収穫して、トマトソースのパスタの上に乗っけて食べたらしい。「悪くない味」だったという。
楽しそうに語られる話を聞くうちに、師匠のわくわくが僕にも伝染してきた。
しかし、それでも僕は何をすればいいのか決めかねていた。
「あれは何だ?」
師匠が注目したのは、テレビの横にある棚、その上にある恐竜の骨格。
「アパトザウルスの骨格」だ。
「優しい恐竜おりがみ」という本を見ながら100枚近くの紙を折って、僕が組み立てたものだ。僕は小さいころからよく折り紙を折っていた。最近はめっきり折る回数は少なくなっていたけれど。そのことを伝えると師匠は、
「すごいじゃないか」と目をぱちくりさせ、
「他に作りたいものはないのか?」と聞いてきた。
あった。
ユニット折り紙の90枚組。
折り紙のジャンルで、ユニット折り紙というものがある。まったく同じパーツを何枚も折って、それを組み合わせて一つの球を作る。枚数が増えるほど手間も時間もかかるものだ。その折り紙の90枚組。僕は子供のころから何度もこれに挑戦し、失敗を重ねてきていた。
ずっとやってみたかったことだが、こんなことでもいいのだろうか?
「少しでも興味があるならやってみろ。行動しなければ何も変わらん」
というわけで、次の課題は「ユニット折り紙90枚組」に決まった。
「楽しめよ」と一言残し、師匠は去って行った。
この課題にどういう意図があるのかわからないけど、僕は素直に従ってみることにした。
それでは、また。