自信がない事と、励ます事と、これでいいのか、について。
今日の師匠は一味違った。
輝いている。全身から生きる喜びのようなものを発しているように見えた。
着ている服も特別な感じ。
ふわふわのピンクのニット、花柄のミニスカート、ひざ丈のブーツという格好。
おしゃれオーラが出ている。メイクもなんかいつもと違う。
話を聞くと今日、サトウ君と食事に行くらしい。二人きりで会うのはこれが初めてで、すごく緊張しているという。
だからおめかししているのだな、と僕は理解した。
――デート、ですか。何かおしゃれな格好してますね。
「当然だ。これを見ろ」
スマートフォンを差し出され、その画面をのぞきこむと、雑誌の1ページが収められていた。
ピンクのニット、花柄のミニスカート、ブーツを身につけたモデルがにっこり笑っている。目の前にいる師匠とまったく同じ格好だった。
「参考」なんてもんじゃない。まったく同じ。おそらくこれは同じブランドの同じ商品だ。写真と実際に目の前にいる違いはあると思うけど、師匠の方が魅力的だと僕は思った。
――ぜんぶ、パクったんですか!?
「悪いか?私はおしゃれになんか興味ないんだよ。問題は使えるかどうかだ。周りの人間を魅了できれば、パクリだろうが何だろうが問題ない」
――でも。
「生き残れればいいんだ。細かい事は気にするな、それに」
――それに?
「私はモテる」
すごい自信だ、この人にはかなわねえ。
と思っていたら、師匠はバッグから手鏡を取り出し自分の顔を覗き込んで、
「私はかわいい、私はかわいい、私はかわいい、私は……」
と、つぶやきだした。
自信無いんですね……。と僕が聞くと、師匠はつぶやきを止め、急に虚ろ気な目をして僕をちらりと見た。そのまま視線を床に落とし、ぼそっと言った。
「かわいく……ないかな」
両手をぎゅっと握りしめ、唇をかみしめた。
急に小さな子供のように弱気になった師匠を見て驚いた。
僕は焦った。かなり焦った。
細かいことは覚えていない。ただ思いつく限り、すべての言葉で励ました。
「全力を尽くす」と決意を新たにした師匠を、玄関まで見送る。
ドアを閉める時、不意に立ち止まった師匠は小声で「ありがと、デート頑張る」と恥ずかしそうに言った。
戦場に向かって歩き出した戦士をドキドキしながら僕は見送る。
自分の中に沸き起こる様々な感情に圧倒されていたら、何かが足に噛みついてきた。
クロだった。飯だった。そうだった。
何だか落ち着かなかった。
調子が悪いのではなく、落ち着かないのだ、今も。
何なんだこれは。
……ああ。
それでは、また。