油取り紙
「よくやった」と師匠は微笑んだ。
それだけですべてが報われた気がした。
何がいいかな、と師匠はピンク色で大きなリボンのついたバッグをガチャガチャいじって、よし、と呟く。小さな四角いカードのようなものを取り出した。
「これをやる。褒美だ」
――これ、何ですか?
「油取り紙だ、いらないからやる」
……いらないからって。
僕は作り笑いをして受け取った。うまく笑顔を作れていたかはわからない。
そのあと師匠はクロを観察していつものレポートを書いていた。
僕は沈黙が怖くて話を振る事にした。
――そういえばサトウ君とはどうなりましたか?
聞いた後でしまった、と思った。プライベートな事すぎるし、なんでお前に話さなきゃいけない、と怒られるか、あるいは気持ち悪いと拒絶されるかも。
しかし、意外な反応。
師匠は大きく笑って、「聞いてくれるか」と弾んだ声で言った。
「サトウ君が私にだけ優しい気がする」
「ちょっと早いけど、クリスマスは一緒に過ごす約束をしたい」
「やっぱり私から告白しないとだめか?待ってるだけじゃチャンスは逃げるからな。うーん」
言葉一つ一つとくるくる変わる表情のすべてが、「サトウ君好き」と主張していた。
正直、辛いと思ってしまった。
でも、生き生きとしている師匠を見ていられる事を、嬉しいを思ったことも本当だ。
ハイテンションで次のバイトに向かう師匠を見送ると、
心の中に若干のさみしさと、右手の中には油取り紙が残った。
顔の脂と満たされない何かをぬぐい去ろうと、僕は油取り紙を引き抜いてみた。
それでは、また。