1200円、返してほしい。
近所にある自転車屋さんへ行った。
パンクした(させられた)自転車を修理するためだ。
禿げたおじさんが修理してくれた。
学生時代、僕は自転車通学だったので、このおじさんには結構お世話になっている。
改めてみると、おじさんは全然変わってなかった。頭髪以外は。
昔からそうだったが、青いつなぎが仕事着のようだ。ところどころ汚れているのだけど、仕事をしている証のようで、かっこいい。
店内を見渡すと、様々な工具、部品、ネジ、油の入ったブリキ缶みたいなやつなんかが並んでいる。古いポスターが色あせたまま貼りつけられている。
歴史というか、人の営みを感じて僕は心を躍らせた。
以前はこんなに誰かや何かに興味なんて持てなかった。自分の中で何かが切り替わったのか、ただ「普通」に近づいているのか、それはまだ分からない。
おじさんは、画鋲が横から刺さったタイヤをみると、こりゃひどい、と言って作業に取り掛かった。
少し喋る。
僕の自転車だけでなく、アパートのすべての自転車が被害にあった事を伝える。
すると、
「これは結構力いるよ。大人がやったか、子どもなら石か何かで叩いたのかもしれないな」と語る。
作業しながら喋るのに慣れているのか、作業と会話のテンポがこなれている気がして、僕にはそれが面白かった。
作業は手際よく進み、ものの5分で修理は終わった。
代金が以前より少し割高になっている。
僕は渋々、料金を支払った。
そもそも、いたずらされなければこの出費は無かったのだ。
そう思うと、怒りがこみ上げてくる。
ちくしょう、1200円返せ!
……でも、自転車屋さんの店内を見学できたのは面白かった。
そんなことを思いつつ、僕は図書館を目指して走り出した。
それでは、また。