hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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フルスマイル

午後1時、玄関を開けると。

「こんにちわぁ♡」

師匠が僕にあいさつしてきた。笑顔だ。フルスマイルだ。

僕は動きが止まった。

「あ」

急にきまりの悪そうな顔になった。視線をそらして師匠は言う。

「間違えた。今のナシ!何でもない。忘れろ!」

――え?

「わ・す・れ・ろ」

睨まれた。よかった。いつもの師匠だ。

 

どうやらサトウ君に告白されたらしい。「うれしさ全開で正気を失っていた」という。

師匠はずっとニヤけていた。んふふふふふー。とか笑ってた。ちょっと怖い。

「ブサイクー!元気だったかー?」

――クロをブサイクと呼ばないでください。

「おお、すまん。私は幸せでしょうがない~♪」

とうとう歌いだした。ちょっと腹が立つ。同時に泣きたくもなった。

やっぱり僕の恋はかなわない。というか、何ひとつ始まらずして終わった。でも、へこむ。

――いいですね。幸せそうで。

皮肉をこめて言ったつもりだ。

すると師匠は、急に真顔になった。

「お前は今幸せじゃないのか?」

心配されているのか、怒られているのか、それ以外の意味の質問なのか、僕にはわからなかった。

言葉を返せなくて、固まる。

しんと静まる部屋の中で、師匠は再び口をを開いた。

「お前は自分が好きか?」

何でそんな事を聞かれるのかわからなかったが、痛い質問だった。

僕は最近、自分なりに自分を好きになろうと努力をしていた。思考、行動、習慣を見直した。

だけど……。

正直に言った。

――嫌いです。

「だろうな。不幸な奴の特徴はこれだ。『自分が嫌い』だ。四六時中付きまとう自分自身が嫌いなら、生きて感じるもの全てに嫌気がさしてくる。少なくとも私はそうだった」

――師匠は自分が好きなんですか。

反抗的な気持ちを悟られぬように聞いた。上から目線にちょっと腹が立っていたからだ。純粋な興味もあったけど。

ひと呼吸おいた後、師匠は言葉を選ぶようにして言った。

「もろ手を挙げて『好き』とは言えない。だが、嫌いでもない。駄目なところもあって私だからだ。そう思えるようになって気持ちが楽になったな。だがお前に無理に『自分を好きになれ』とは言わん」

――じゃあ、どうすれば?

「好きになろうとして自分を好きになれるなら、だれでもそうするだろう。だが、無理だ。だから騙せ。自分を騙すんだ」

理解が追い付かない。たぶん僕の顔には「?」が浮かんでいただろう。

「こう考えろ。『自分がもし自分を好きならどんな行動をとるか?』と。そしてそれを実行しろ」

僕は、はあ、と曖昧に頷いた。

「まあ、やってみろ。面白いぞ。そうだな、3つでいい。やれ」

そのあと師匠はまたハイテンションに戻って、レポートを書きあげ、颯爽と去って行った。

 

自分をだます。

そんなふうに考えた事はなかった。

どういう事なのか、よくわからない。明日ゆっくり考えよう。

だいたい、今の僕はサトウ君ショックで頭がよく回らない。

ううう。あああ。なんにもかんがえたくない。

それでは、また。