hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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前に進むために、新聞紙と、裸の壁。

今日まで僕の部屋の壁には全面、新聞紙が貼ってあった。

怖かったから。

10年前、声がしたのだ。

アパートの隣の部屋から。

隣の住人達の声。壁が薄いボロアパートなのでほとんどの声が聞こえる。

自分の行動の逐一を観察され、コメントを入れられる。

笑われる。けなされる。否定される。

毎日続いていた。しかし、夜限定。金曜日の夜が一番うるさかった。

大勢の声。酒でも飲みながら笑っているようだった。

隠しカメラでもあるのだろうかと思い、部屋中を探す。すると、

「惜しい!そんなところにはない!」と喜ばれる。

 

これは幻聴なのか?

1度ためしに、夕方に眠った。

眠ってしまえば、回避できるだろう。そう思った。

起こされた。

壁を殴打されたのだ。

僕がガバっと起きると、大爆笑。

「逃げられると思うなよ」とのこと。

 

あれは幻聴だったのか?

医者やほかの人たちは幻聴だと断定する。

おそらく「妥当な判断」で、「普通」の意見だろう。

しかし、

隣の住人が引っ越したとたん、声は無くなり、それ以後誰かの声に脅かされる夜は1度も無かった。

人に信じてもらえない事で、僕は人を疑うようになった。

意固地になった時期もあった。

でも、今更こんな事を思い返してもしょうがない。

事実を確認する術はないし、「僕が狂っている」という結論で大多数の了解は得られるのだろう。

本当の事は僕にはわからない。

 

それで、その当時「視線」を回避するささやかな抵抗として、僕は新聞紙を壁に貼り付けた。

 

壁の新聞紙を見渡すと、変色がひどかった。紙面には10年前のニュースが未だに躍っている。

僕の中で止まった時を象徴しているようだと、最近気付いた。

声はもう無くなったし(あの隣人たちはもういなくなった)、

この部屋を訪れる人たちの疑いの視線も取り消したい。

師匠は普通にふるまってくれているけど、

内心かなり引いているんじゃないだろうか?

そもそも最初、カッターで刺されそうだったし。

あれが普通の反応かもしれない。

 

もういいだろう。

僕は新聞紙をはがすことにした。

 

画鋲を抜いて、壁を裸にするだけ。

作業はあっという間に終わった。

 

……さっぱりしている。

10年以上振りに壁をじかに見た。

薄い緑。

こんな色をしていたのか。

これでいいんだ。

僕が前に進むためにはどうしても必要な事なんだ。

もう1度人を信じて、僕自身も人に信じてもらえる人になりたい。

信じられる人や、大事なものが見つかったから。

今度は自分が変わらないといけない。

そう思った。だから、新聞紙を取りはらった。

決着はつけた……つもり。

だが、

どうしても不安になる。もうすぐ夜だし。

今日はもう寝よう。

それでは、また。