ゆるしてほしい
母親を泣かせた事がある。
あれは僕が小学生をやっていたころで、母がうつ病を発症した直後だったと思う。
いつもはぶっきらぼうな母が、改まった態度で僕に聞いてきた。
「○○(僕)にとって、お母さんって何?」
今になって思えば、あれは重要な問いだったのだろう。
母が己の存在意義を子供に問うたのだと思う。
だが、僕はこう答えた。
――家事をしてくれるひと。
母がその時どんな顔をしていたかは覚えていない。
「それだけ?」
――うん、それだけ。
絶句した母は数分後、泣きだした。
なぜ泣きだしたのか、当時の僕にはわからなかった。
不安にはなったけど。
僕は自分の不満は大げさに言うくせに、人の痛みには鈍感だった。
今だってそうかもしれない。
いいかげん、大人にならないと駄目か。
もちろん、今だったらもう少しましな回答ができる。
憎しみや、損得勘定じゃなく、感謝をしているから。
バカだった息子を許してほしい。
すまない、母さん。
そんな事を思いながら、母の内職を手伝った1日だった。
……手が痛い。
それでは、また。