hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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バトミントン

朝から落ち着かなかった。

裁判の結果を待つ被告の気持ち。

師匠は来てくれるのか、と。

午後1時、いつもなら来る時間。

来ない。

ああ、やっぱり、とぐったりしていたら玄関のチャイムが鳴った。

師匠は来た。けっこう大きなバッグを持って。

 

――もう来ないかと思ってました。

「そんなわけあるか。私は仕事に私情は挟まないんだ。それに」

師匠はじっと僕の目を見て言った。

「弟子を見捨てる師匠がどこにいる?」

僕はもうそれだけで、泣きそうだった。

何とかこらえたけど。

 

とは言え。

無言。沈黙。空気が重い。

何も言わずにレポートを書く師匠と、緊張してガチガチの僕。

さらさらと走るペンの音と、時計のかちこち音が部屋を支配する。

これはまずい、と思った。

何か話したいけど、話せない。

改めて自分の無力を知った。

よし、とレポートを閉じる師匠。もう行ってしまうのかと僕は思った。

師匠は言った。

「バトミントン、やれるか?」

気を晴らすには運動が一番だと言って、師匠は大きなバッグからラケットを取り出した。

 

アパートの前の少し細い道路でバトミントンをした。

ネットもないし、コートも白線もない。

ひたすらラリー。

師匠は学生時代バトミントン部だったらしく、フォームがきれいだった。

一方僕は卓球の動きを思い出しながら応戦した。

「変な動きだな」と師匠は笑っていた。

僕はすぐに息が上がった。腹筋が痛い。最近走ってなかったし。

 師匠は的確に僕が打ち返しやすい場所にシャトルを返してくれた。

一方僕は、返すのが精いっぱいで何度も師匠をてこずらせた。

技術的な差がある事を差し引いても、

人としての自分の器の小ささを何となく感じた気がした。

 

ひとしきり打ち終えた後、師匠は僕に言い聞かせるように言った。

「いいか。何かを続けるんだ。何だっていい。くだらなくても、みっともなくてもだ。何かを続けることのできない人間は、何一つ達成できない。わかるか?」

僕は、話を理解はしたがなぜ師匠がこんな話をするのかがわからなかった。

すると、師匠は言った。

「だから、これからも私はここに来るバイトを続ける。そんなに不安そうな顔をしなくていい」

そう言ってスタスタ部屋に戻っていく師匠。

午後の淡い光を背負うその背中を僕は見つめていた。

恋は終わったけどこの人についていこう、と思いながら。

それでは、また。