hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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大丈夫

失恋については吹っ切れた。

僕はもう大丈夫だ。

 

午後1時。玄関のチャイムが鳴った。

僕は軽い足取りで玄関へ。

笑顔で師匠を迎えよう。ドアを開ける。

――こんにちは!

「……おう」

ものすごくテンションの低い師匠が立っていた。

 

ここのところエロい、いや色っぽい格好をしていたのに今日の師匠はオーバーオール姿。

目元が腫れて、表情が暗く、覇気もない。

――師匠、もしかして……。

「ああ、アイハラ君にふられた……」

 

「ああ、一生独りだ。さみしい。心が死ぬ」

師匠が愚痴、というかぼやきだした事に僕は戸惑っていた。サトウ君の時はピリピリして、慰めようとした僕をはねつけていたから。

相当へこんでいるのか、あの時より僕に心を許してくれているからなのかは、わからない。

けれど、何か力になりたかった。

でもなんて言葉をかければいいのかわからない。

「私なんかが人に好かれるわけがないんだ。ありえないんだ。こんな暗い女、誰も好きになってくれない……」

ひとり言なのか、僕に言っているのか、なおも師匠はつぶやき続ける。

――師匠。

「ん?」

――僕は師匠が好きですよ。

と、言葉をかけると。

にらまれた。

「キモい。1度ふられた相手にしつこくするのはだめだ。まじめにだ」

下心はなかったのだが。

うまくいかない。何とか励ましたい。

師匠は好きな人の前で無理をする人という事はわかっていた。電話の時、声や態度が変わるし、「人と付き合う事は演技だ」何て言っていた事もある。

きっとこの人も自分に自信がない、僕はそう確信していた。

ずっと見てきたから、好きだったから、わかる。

好きだからこそ見えない事もあるのかもしれないけど……。

それで。

気付いてほしかった。ありのままの師匠でも受け入れられるという事に。

しかし、それをどう伝えればいいのか、言葉が見つからないまま時間は過ぎて言った。

 

 熱いコーヒーを手渡した。

師匠は両手でマグカップを持って、ふーふーする。

僕もコーヒーを一口すする。口の中に苦い味が広がる。

「何故うまくいかない?おおよそ欠点という欠点は隠したのに」

泣きそうな顔になる師匠。見ていてつらい。

僕はカフェインで覚醒する脳をフル稼働させた。

こたえは、シンプルだった。

――ありのままでいいんじゃないですか?

「?」

また、にらまれた。

この人は慰めて欲しいのか放っておいてほしいのか、その判断を一瞬迷ったが、僕は押し切る事にした。

――僕にダサいとか、キモいとか師匠は正直に言ってくれるじゃないですか。それで、僕はそういう師匠が好きです。

「何だ?お前はけなされるから、私の事を好きになったのか?」

――そうですね。

「変な奴。ふふっ」

師匠はやっと笑ってくれた。

 

それから師匠はぼやくことなくレポートを書きあげた。

帰り際。

「今日はすまなかった。次はしっかりしてくる」

――おう。しっかりしろよ。

「何でタメ口なんだ!?調子に乗るな!」

胸を小突かれた。師匠は、また笑った。

僕は安心した。

師匠は、僕が告白すると言った時にあれだけ「自殺するな」と忠告した人だ。

もし、そんな人が思い詰めたら、と僕は心配して、不安になっていた。

でも、きっと大丈夫だろう。

笑ってくれたから。

そう信じたい。

それでは、また。