ジャンボシュークリーム
実験5日目。
今日は自宅アパートから最寄りのデパートに行ってきた。
もちろん自分がどれだけ外に出られるかを確かめるためだ。
自転車で25分くらい。
ホームセンターが併設されていて、立体駐車場は4階建て。
休日のせいか、人が多かった。
緊張する。
意を決して中に入る。
玄関を抜けると、4階まで吹き抜けの中央ホールで物産展が開かれていた。
地方の特産品、駅弁みたいなやつ、お菓子、漬物なんかが売っていた。
気になったのは、ジャンボシュークリーム。
しぼりたて牛乳と、とれたて卵が自慢らしい。
しかし、その値段。
298円。
買うのはやめておいた。
財布に1000円しか入ってなかったし、食べきれる自信もなかったからだ。
そのままエスカレーターで2階へ上がる。
電気屋へ侵入した。
携帯のコーナーで、親子連れが喋っていた。
新学期や入学をきっかけに携帯を持つのだろう。
甥っ子も高校生になるという事で、親に携帯を買ってもらうと言っていた。
時の流れを感じる。
僕は携帯に興味もなかったのでそのまま奥のおもちゃのコーナーへ突入した。
おもちゃ屋は好きだ。
今はどこかへ行ってしまった父親との秘密がある。
僕が幼いころ、父は母の目を盗んで僕をおもちゃ屋へ連れて行ってくれた。
そこで毎回ごっついおもちゃを買ってもらっていた。
「トランスフォーマー」のロボットとか、戦隊ものの超合金ロボ、ウルトラマンの人形とか。
そういう数少ない父との思い出の場所としておもちゃ屋は僕の中で分類されているので、「おもちゃ屋」という言葉だけでも僕はわくわくする習性を持っている。
とは言え、さすがにもうおもちゃがいる年でもない。
特に目的もなくフラフラしていた。
レジの隣にゲームのコーナーがあった。カードをスキャンして遊ぶやつ。
ちょっと前で言うと、「ムシキング」みたいな機械。
甥っ子兄弟が小さい頃、たまに同行して彼らが遊ぶのを見ていた。
その事を思い出して穏やかな気分だったのだが、
何かがおかしい。
視界がおかしい。
真夏に太陽の下にいて、建物の中に入るとしばらく真っ暗になる。
あの現象に襲われる。
そして僕にとってこの現象は、調子を崩す前触れなのだ。
まずい。
急いで人気のない自販機まで向かう。
その途中、すれ違う人たちの視線が怖かった。
ほんとうに怖かった。
お茶を買って財布からヒルナミン(25mg)を取り出し、速やかに飲み込んだ。
これで大丈夫、なわけではない。
効くまでに時間がかかる。
心臓がドキドキする。足がちょっとずつ震える、目を閉じても光が襲ってくる。
かといって目を開けると、床や壁のシミや点が僕を責め立ててくる。
しんどい。
呼吸を整える事に集中して15分くらい。
多少治まってきたところで、急いで撤退した。
昨日まで連勝を重ねていたので調子に乗っていた。
限度というものがあるらしい。
やっぱ病気なんだな、と自覚した。
しかし、「駄目なんだ」とか「失敗した」とは思わない。
「データが取れた」と考える事にした。
外出は「単発」や「慣れているところ」なら大丈夫だけど、「連続」で「慣れていないところ」はまずい、という事がわかった。
なので、何もわるくない。
悔やまれるのは、やっぱりジャンボシュークリーム食べたかったことぐらいだ。
それでは、また。