バレバレ
午後1時。
いつも通り師匠はやってきた。
白の長そでワンピースに黒のタイツ、ペタンコ靴というシンプルなファッションだった。
師匠がレポートを書き終わったことを確認してから、この一週間でやった実験を報告した。
成功も失敗も包み隠さず。
「もう、大丈夫だな」
――はい。
自信を持って返事を出来た。
――でも、楽しいのはいいのだけれど、こんなにフラフラしてていいのかな、と。
「楽しくなければどんな事も続かないものだ。楽しめばいい」
にっこり笑ってくれた。と思うと一転、厳しい顔になって師匠は言った。
「だが、いつかはやるべきことをやって責任を果たすべきだと、私は思う」
働くべきだ、という事だろう。
僕は黙ってうなづいた。
そのあとは2人で、人生の目的って何だろうとか、どうすれば納得して死ねるのか等を話し合った。
軽く1時間以上は話していた。
僕はずっと自分に自信がなくて人と話す事が苦手だった。
でも、ここ最近はこう思っている。
ちゃんと相手を理解するようにして、同時に相手に自分を理解してもらえるように努力すれば、自分だって結構人と話せるじゃん、と。
「じゃあ、もしまだ残っていたら、私の分もジャンボシュークリーム買っておいてくれ。金は払う、ん?」
師匠の携帯にメールの着信があった。
画面を確認すると師匠は、
「んふふふふふ」と笑った。
――どうしたんですか?
「イリエ君からだ♪」
満面の笑み。指で髪をもてあそぶ。目がランランとしている。
僕は気づいてしまった。
――その人の事が好きなんですね?
「なぜわかったっ!?」
師匠は目と口の両方を丸くした。僕はそんな師匠も可愛いと思った。
――バレバレです。
「そうか……」
はにかんだその顔は乙女そのもので、僕の胸はキュンとしてしまった。
未だに僕は師匠への気持ちを引きずっているのに、この人はもう次の恋に向かって走り出している。
すごいバイタリティだ、やっぱりこの人にはかなわない、と思った。
師匠を見送った後、僕は火照った顔を冷やすために散歩に繰り出した。
夕方になっても日は高く、吹く風も冷たくない。
アパートのすぐ近くに咲くフキノトウを見て、季節の移り変わりを感じた。
僕ももっと変わっていかないと。
焦りではなく穏やかに、何かをやらなきゃな、と思った。
それでは、また。