もめごと
今日は2週間に1回の通院日だった。
僕はバスで病院へ通っているのだが、最寄りのバス停からでも病院まで徒歩15分はかかる。
冬は寒いし、夏は暑い。交通の便はいい方じゃない。
それでも道の途中で見渡せる風景はわるくない。
さらに秋になると枯れ葉がたくさん出てくる。それを踏みしめた時にする乾いた音はかなり心地いい。
歩くのは好きだし。
病院に着くと、パトカーが来ていた。
入口のところに警察官の男性2人。向かって外来患者の女性が1人。叫んでいた。
少し距離を置いて病院のスタッフが取り囲む。
「いいかげんにして!私の人権が!……」とか叫んでいる。
権利とか、責任がどうのと言っていた。
僕はちょっと立ち止まり、新参のやじ馬となって状況を観察した。
ちょうど近くにいた面識のある先生に話を聞いた。
簡単に(乱暴に)説明すると、
叫んでいる女性患者さんが主治医にカルテの公開を求めた。
しかし、主治医がそれを拒否。
女性暴れる。警察来る。ということらしかった。
「○○ ○○(医者の名前・フルネーム)を私は許さない!」
「もう誰も信じない!」
女性はなおも叫び続けていた。目には涙が浮かんでいた。
ああ、わかる。
たぶんあの人は「裏切られた」と思ったのだろう。
自分も最初精神科にかかった時思った事だ。
家の中に閉じこもって、誰も味方がいない(と思っていた)。
周りが敵に見えて、こちらを気遣ってくれる人に対しても、
「どうせ僕の事おかしいと思っているんだろう」とか、
「誰もわかってくれない。信じない」とか思っていた。
それで、どうしようもなくなって病院へ。
話を聞いてほしかった。
理解されたかった。
導いてほしかった。
しかし、それは精神科医の仕事じゃない。
当然、僕の期待は裏切られた。
僕はそんなふうに弱い自分も嫌いだった。
今はもう割り切ったけれど。
それで、あの叫んでいた女性患者さんも心が弱っていて、理解や協力を求めていたのではないだろうか?
なのに拒絶された。
もちろん要求にも限度はあるし、病院側にも色んな都合があるのだと思う。
どうなればよかったのだろう?
僕は答えを出せないまま、霧雨の中バス停に向かった。
それでは、また。