いまだけは
僕は10年間部屋に引きこもっていた。
だが、ここ半年で外に出る事が怖くなくなった。
その原因を考えると、あいつの事は外せない。
僕は里親をやっている。
なんの里親か?
ドラゴンのクロだ。
ドラゴンと言っても正直かっこよくない。というかブサイクと言っても差し支えない外見だ。
人間の言葉を理解しているかは分からないが、あいつの前ではブサイクとか、人の悪口とかは言わないようにしている。
僕の親がたまに人の悪口を言う事がある。
そういうのがけっこう嫌で、ケンカになる事もある。
なので、僕はクロの前ではネガティブな事は言わないようにしている。
それに言葉だけが伝達手段じゃない。
あいつは腹が減れば噛みついてくるし、
こたつが点いてない時も噛みついてくる。
機嫌が悪い時も、遊んで欲しい時も噛みついてくる。
……ずっと噛みつかれている。
それに対して僕はアイアンクロ―で対処している。
僕は19歳の時から統合失調症に悩まされ、将来を悲観し、すねて、世の中を恨んできた。
ずっと自分を役立たずだと思い、憎んできた。
例えば、自分で買い物に行けなかった時や、薬の量が多くてほぼ1日眠り続ける生活をしていた時なんかは強くそういう気持ちが出てきた。
焦っていた。劣等感も強かった。
「普通に生活を送っている人が僕を見たら、軽蔑するんじゃないか」って。
でも、クロが生まれてから、考えが変わった。
世話をしなきゃいけなくなった。
食事、掃除、爪を切ったり、トイレの始末も。
いちばん大変なのは外出して食糧を確保する事だ。最初はものすごく緊張して、怖かった。
たまに休みたくなったり、面倒になる時もある。
それでも、クロがいなくなったら僕はさみしい。
役に立ってほしいとか思わない。いてくれるだけでいい。
それで、自分に問いかけた。
周りの人は自分をどう思っているのか?と。
特に母親や姉、甥っ子たちの気持ちを。
一気に答えの出る問いじゃなかった。
迷ったり、焦ったり、不安になったりもした。
疑ってみて、傷ついたり。
確認して、笑ったり。
その結果、人を信じられるようになった。
なので自分の中で勝手に作った「誰かの目」は気にしない事にした。
「僕は今生きている。これからも生きていきたい」ぐらいのことしか考えない。
そういう変化が自分の中に起こってから、自然に外へ出られるようになった。
コンビニや、スーパーの店員さんも怖くない。
とはいえ、僕は期間限定の里親だ。
親としてクロと一緒にいられる時間は限られている。
だからこそ、今だけはクロとの日々を満喫しようと思う。
「役に立つ・立たない」のメガネを外して。
それでは、また。