意味
今日も部屋の掃除をしていた。
昨日は整理整頓をしたので、今日は汚れ取りがメインだった。
掃除機をかけて、ぬれぞうきんで床を拭く。
窓を開けて、はたきで埃を飛ばす。
明日はゴミの日だから、要らないものを町指定のゴミ袋にまとめた。
2時間くらい窓を開けているわけだが、
クロは外に出ようとしない。
たぶん怖いのだと思う。
あいつはここで卵からかえって生まれた。
1度も外に出してやった事がない。
ドラゴンなんて多分、ワシントン条約にひっかかる。
人目に着いたら大変だ。
外に出すわけにはいかない。
去年まで僕も部屋の中に引きこもっていたから「この部屋が全て」という気分はわかってしまう。
過去の自分を見るようだ。
不憫に思う。
楽しもうとすれば、外の世界には楽しい事がたくさんあるから。
何とか外の世界を見せてやりたい。
もしかして、母や姉は僕に対してそんなふうに思っていたのかもしれない。
今、僕は外に出られるけど、僕は運がいいだけかもしれない。
いい人ばかりに出会うからだ。主に近所のおばあちゃんや、おじいさんだ。
あいさつしたら返してもらえる。
お店に行って話しかけると応えてくれる人がいる。
そういうことが嬉しい。
もちろん過去には色んな嫌な事があった。
指をさされて笑われたり、
石を投げられたり、
子供に泣かれたり。
かなりしんどかった。
人を信じられなくて、疑って、怖がって、怯えてた。
おどおどしてたり、卑屈になっていたんだと思う。
多分そういうのが、知らない人に伝わっていたのかもしれない。
でも、笑うようになって変わった。笑顔を返してくれる人が結構できた。
そうなってから、人が怖くなくなった。
どういう原理や方法でこの変化が実現したのか、僕自身はまだうまく定義できない。
いつかわかったら、誰かの力になれるかも。
それができれば、僕が苦しんだ意味もちゃんとあったと言い切れる気がする。
クロは外には出られないけれど、鳥には興味があるみたいだ。
この部屋のベランダにはスズメがよく来る。
たまにハトも。
そんな時あいつは、一生懸命なにかを喋りかけている。
「ニャニャニャ、ニャニャニャ」って。
たいていすぐに逃げられているけれど。
捕って食おうとしているのだろうか?
今度焼き鳥も買って来てやろうと思う。
ためしに聞いてみた。
クロ、外に出たいか?と。
するとあいつは、しっぽを振って冷蔵庫の前まで走って行った。
どうやら興味があるのは外の世界ではなく、生肉の事らしい。
これはこれで面倒くさくない、と思ってしまう僕はズルい飼い主だと思う。
それでは、また。