アタック
今日は古着屋に行きたかったのだけど、行けなかった。
母に召集をかけられたからだ。
朝早くに急ぎの内職が入った。
助けを求められたので、僕は手伝いに行った。
電話が来て、すぐに部屋を出た。
春の陽気。暖かい日射し、さえずる鳥たち、ゆっくりと流れる雲の下には緑もえる山々。
この町はほどよく田舎だ。
だから、大好きだ。
ちょっと早足で歩き続けていると、グリーンのネットが目に入った。
ゴルフの打ちっぱなし場だ。
中学生のころ、僕はよくあそこで卓球部の友達と遊んだ。
ろくにフォームも知らずにボールにクラブをぶつけ続けて、左手の皮が3分の1ぐらいズリむけたのはいい思い出だ。
……すげえ痛かった。
そんな事を思っていて、僕はふと、ある事に気付き、思いつき、1つの決意を固めた。
でも、内職は待ってはくれないので、僕はそのまま実家へ向かった。
内職はスムーズに終わった。
しかし、朝から帽子100個を12時までとか、1人で終わる量じゃない。
内職を持ってくる人は僕の手伝いも計算に入れているのかもしれない。
午後になって実家を出た。
真っ先にゴルフ場に向かう。
閉店後のボール拾いのバイトがあるかもしれない。
学生時代、同級生とバイトの話をしていて、そんなバイトの話が出たのを思い出したのだ。
短時間で接客がない、しかも近所。
僕にとっては理想のバイトのように思えた。
実家から歩き続けると、徐々に緑色の高いネットが見えてくる。
カーン!というボールを打つ音がどんどん近付いてくる。
緊張していた。
平日にもかかわらず、ゴルフ場には結構人がたくさんいた。
自動ドアを抜ける。
イケメン風の若い男性が正面カウンターに右手を着いていた。目があう。
すいません、と声をかけて単刀直入に聞いてみた。
球拾いのアルバイト、募集してませんか?
「今は募集してないです」という答え。
「今は」という言葉をしっかり聞いていた僕はさらに聞いてみた。
じゃあ、募集している時もあるんですね?などと。
結果、
1、新聞のチラシで募集する事がある。
2、時期がいつかは決まってない。
3、今は人が足りていて、やめる予定の人もいない。
ということが分かった。
それ以上食い下がる精神力がなかったので、僕はそのまま大人しく退散した。
ダメ元で行ったが、ボール拾いのバイトそのものは存在することが分かった。
チャンスがあるならぜひやってみたい。
近所でも根気よく探せば、挑戦できそうなバイト先はもっと見つかるかもしれない。
これからもアタックをかけていこうと思う。
それでは、また。