hatopoppo_25's blog

気づけば普通の日記になっていました。

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お前はお前だ

午後1時。

師匠はやって来た。

来たけれど、先週の事もあってか、僕たちの間には気不味さしかなかった。

 

僕は師匠に何も話す事ができなかった。

黙って時間が経つのを祈りつつ、いま師匠と話さずにいたら後悔するという焦りもあった。

自分でもどうしていいのかわからないまま、時計の針は進んでいく。

師匠はそんな僕の気持ちに気づいていたのか、特に僕に話しかけてくる事もなかった。

だけど、クロには優しかった。

「ブサイクー!」

「ニャー」

クロの喉元をガリガリする師匠。

喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶクロ。

「お前ともお別れか。すまないな、人間の勝手な都合で。いつも犠牲になるのは弱い者ばかりだ」

そういうと師匠はどこか翳りのある笑顔を浮かべた。

「おい」

――はい。

その時、初めて目があった。

師匠は僕に手短にこれからの事を説明した。

クロは来週の日曜日に回収される事。

今までの事は他言無用。そして、

 

「私がここに来るのもあと1回だ。それでお別れだ」

――今までありがとうございました!

「……それだけか?」

――はい!

僕は笑顔を作った。全力で。

声も明るく。

100点満点のはずだった。しかし、師匠は。

「ナメてんのか、お前は!?」

胸ぐらを掴まれた。

「どうして私に本心を隠す?私はお前を信じているのに」

見つめられた。まっすぐに。

師匠の目にうっすら涙がにじんで見えた。

 

その瞬間、自分の中で何かが崩れた。

抑えて、埋めて、留めていたものが涙となって僕の目から溢れた。

鼻水も出たし、よだれもちょっと出た。

それでも師匠は僕をにらみ続けるし、僕も師匠から目をそらせない。

もう逃げられなかった。

――……師匠。さみしいです。どこにも行かないでください。

「よく言った」

そう言うと、師匠は僕を抱きしめて、背中を優しくなでてきた。

「本音でぶつかる事を恐れるな。体裁なんか気にするな。嫌われても、けなされても、お前はお前だ。下手にかっこなんかつけるな。それでいいんだ」

僕は黙ってうなづいた。

鼻水をすするのに忙しかったからだ。

「それに」

――?

「私だって、どうでもいいなんて思われたら傷つくんだぞ」

――じゃあ、これからも来てくれるんですか?

「それはない。お前を男として何とも思ってないからだ」

あんまりだ、と僕がガックリしていると師匠は言った。

「本当に情が無いってわけでもない。だが、いちいち思っている事を口にするのは野暮ってものだろう?」

笑う師匠。目が優しかった。

もう十分だった。

死んでもいいとさえ思えた。

その時、師匠の携帯が鳴った。イリエ君からだ。

途端に師匠は嬉しそうな顔になった。

『もしもし、ナオキ~?愛してるよ!』

……。

『愛してるよぉ。えっ!?だってさ、想いは言葉にしなきゃ伝わんないじゃん!』

……。

『ナオキ大好き!一生そばにいるから!』

……。

 

僕は結局、最後の会話は聞かなかった事にした。

人の電話とか聞くのは、駄目だと思うし。

何が何だかわからないが、

もういいやって思える。

これからは人に思ってる事をちゃんと伝えなきゃ、と僕は思った。

それでは、また。