言葉を使えた
僕は普段、外食をしない。
しかし、なんだか冒険がしたいと思った。
なので、この間1人で喫茶店へ行ってきた。
家からちょっと離れた店。
前から気になっていた。
その日は曇り空で少し肌寒かったので、ロングカーディガンを着て行った。
10分ぐらい歩く。
店の前で、僕は立ち止まった。
やっぱり初めての事はちょっぴり怖い。
が、いつまでも店先で突っ立っていてもいけない気がして、店の中へ突入した。
寂れた感じの店内を想像していたので、面食らう。
ファミレスみたいな内装だった。ライトな感じ。清潔感バリバリ。
木目テーブル+椅子や、大きなガラス窓はセンスがいいと思った。
僕は窓際の席に滑り込んだ。
来る前は、アイスココアを飲んで早々に退散する予定だったが、落ち着ける雰囲気だったので、気が変わった。
ガッツリ食べよう、と思った。
ピンクのエプロンのウエイトレスさんが注文を聞いてきた。
――ヒレカツ定食をお願いします。
「味はどうしますか?」
みそとソースがあるという。
正直、僕はどっちでもよかった。
なので、おすすめは?と聞いてみた。
「私はみそをお勧めします」との応え。
――じゃあ、みそでお願いします。
と頼んだ。
するとウエイトレスさんは、
「ありがとうございます!」
と、弾んだ声で笑ってくれた。
僕は、おお、笑ってくれた!と感動した。
顔には出さなかったけど、びっくりした。
待っている間にメニューをじっくり見た。
スパゲティー、カレー、サンドイッチ。けっこうガッツリ系のものもある。
ハンバーグは毎日食べているからいいや、と思った。
モーニングもやっているらしい。
「ゴーヤーミックスジュース」がとても気になった。でも、550円を出してまで飲む勇気は無かった。
平日だったので、店内には2人組で喋り倒しているおばさんや、会社員なのか背広を脱いだカッターシャツ姿のおじさん、新聞を読んでいるおじいさんとかがいた。
BGMもうるさくないし、空調も問題なし。
落ちつける場所を見つけられた、と僕は喜んだ。
みそヒレカツ定食はおいしかった。
みそカツは柔らかくて、ジューシーで、みそだし、
サラダ、みそ汁、漬物だっていい味していた。
そして、何故かごはんはとろろごはんだった。
ぬるぬるしてるやつ。
ちょっと戸惑ったけど、思い切ってご飯の上にとろろを乗せて頬張ってみると、
マイルドな味わいで、こりゃあ癖になる、と思った。
それで、支払いの時にもウエイトレスさんに、
みそカツおいしかったです、と伝えると再び笑ってくれた。
ちょっとしたやりとりで、人を笑顔にできることはすごく楽しい。
僕は、生きた日本語を使えたと思いながら店を出た。
それでは、また。